徹底的にクールな男達

出血


(3/8)
 気絶したのか、力尽きて眠ってしまったのかは分からない。

 それくらい、3時間もの間、後藤田は執拗で絶倫であり、考える間も与えないくらい延々と快楽を与え、身体を動かし続けていた。

 事が始まったのが徹夜明けの朝方だったせいもあるし、色々な疲労や不安が重なった上での強い刺激に、記憶は前後してあまり覚えてはいない。

 が、

「………」

 言葉を呟き、全身を強く抱きしめ、優しく手を握り、ゆっくり髪をかき上げ、そっと口づけて来たことは所々覚えていた。

 助けられた上に抱かれたことで、後藤田の見方が一気に変わった。

 だけれども、だからといってこの先の関係がどうなっていくのかは、はっきりと分からない。

 昼になって、運転手に送ってもらい、ようやく自宅に戻った。色々ありすぎて現実逃避していた事を、アパートの散らかった部屋を見るなり思い出す。

 朝食代わりにと、後藤田がわざわざ口元まで運んでくれた器に入ったヨーグルトとは真逆の、最後の一個であったカップうどんの汁もまだ流しにある。

 結局昨日の夕方からあまり食べていないので腹は空いているはずだが、全身がだるく、こたつで横になってテレビをみていた。

 結局自体は何も変わっていないので、夜中まで買い物を待つのがある意味賢明な判断だが、普通に考えて女性の深夜の一人歩きは危険なので、夕方3時頃ならまだマシか、と思案しながらうとうとしていた。

 思い切り子宮を突かれたせいか、下腹はまだ重い感じがしている。結構年をとっても動けるものなんだなと呑気に先程を振り返りながら、3時にはだるい身体に鞭打ってコンビニでかごいっぱいに買い物をした。

 貯金の300万はわりとある方だと思っているし、きちんと貯めているつもりだ。

 その点でいうと、コンビニでカゴいっぱいなら、スーパーのカゴいっぱいの方が何割か安いだろうが、今はそんなことを考えている場合ではない。

 冷蔵庫に、少々高くても、プリンやヨーグルト、チルドのおかずや冷凍食品が並んでいる方が先決なのだ。

 と、自分に言い聞かせ、帰宅するなり弁当を広げる。袋に入っていたチラシを見て、ピザなどの出前もアリなのかと気付き、以外に自由な世の中になっていたのだなと今更気付き、安心して撮り溜めしていたドラマを思い出して再生した。

 午後6時。閉店まではまだ4時間あると無意識に計算しながらトイレに行った時、ふと生理がきていないことを思い出した。

 そういえば、アフターピルを飲んだ後3週間以内に生理が来ると言われていた気がする。あれから既に20日近くが経過している。

 1人突然不安になり、トイレから出るなり、スマートフォンを手にとった。

 先程までその存在を完全に忘れていた。まず画面を光らせると、電話が昨日の夜と今日の朝と2件かかってきている。

 2件とも武之内だ。

 かけ直してもどうせ碌なことはない。

 メールも数件あったが、急ぎの用ではないだろうと勝手に思い込んで、先にブラウザを開く。

『アフターピル』

 そう打ち込んだだけで、数々の予測が出た。

 その中で、『避妊失敗』という文字から目が離れなかった。

 イコール『妊娠』

 そんなまさか。そんなはずはない。

 そんなはずはない。

 そう信じている。

 妊娠など、するはずがない。

 だって、アフターピルを処方してもらったんだから。

 しているはずはない、と確信しているのに、手は震えながら、3週間以内に生理が来なかった場合は妊娠検査の必要性がある、など体験談や嘘か本当かも分からない情報を夢中で調べてしまっていた。

 息を飲んで、無意識に口を押えていた。

 そんなはずない。

 そんなわけない!

 今、妊娠していて……しているわけがない!!

 そんな……。

 武之内に電話……なんかできるはずがない。こんな、曖昧の状態でかけたって、また腹が立つだけだ。

 だとしたら……自分で調べに行くか。

 病院に行くか。

 1人で、あそこまで行けるのか……。

 心臓を震わせながら画面に目を落とす。

 そこで、妊娠検査薬の文字を見つけた。
 
 そうだ、薬局に売っている。病院まで行かなくても、すぐそこの24時間の薬局なら簡単に検査することができる。

 今の午後11時の時間ならそれほど客もいないだろうし、何か他の物と混ぜて買えば、簡単に調べることができる。

 迷っている暇はない。
 
 行くしかない。

 行って、そうではないということを確かめなければ、何も、何も終わらない。

< 63 / 88 >

この作品をシェア

pagetop