徹底的にクールな男達

「麻見……」

 玄関を開けてすぐに感じた。

 いつもの、武之内じゃない。

 恰好が私服のジーパンに黒のパーカーという普段着だから雰囲気が違うのではない。

 いつもの、上から見下すような、冷徹な、無関心な表情ではまるでなかった。

 そこにはただ、普通の男性……眉を下げた、私を心配しているような不安気な表情だけが浮き彫りになっていた。

「あ……上がって下さい」

 たった一本の電話で、そう言ってもいいくらい一気に距離は縮まっていた。

 部屋に上がると武之内は遠慮がちに炬燵に入り、麻見も対面して定位置の座椅子に腰かけた。

「……ここに来る間、考えていたんだけど」

「はい」

 麻見は次の武之内の言葉を静かに待った。

「一緒に住めば、お互いのことがもっとよく分かると思う」

「……結婚する前に同棲するってことですか?」

「いや、そんな時間はない。結婚は必ずするんだけど、色々手続きもある中で、まず俺の家に来たらどうかと思う。部屋も広いし」

「……」

 どんな部屋なのかも分からない状態での即答は、避けたい。

「両親に報告、会社に報告、婚姻届を出して、出産の準備。結婚式はどうだろうなあ」

「……」

 色々高いハードルを越えなければならない上に、一番大事な結婚式はしないかもしれない……。

「俺の親はもう結構年とってるけど、家は兄が継いでるから自由にできる。麻見は?」

「……私は、弟がいますけど実家出て東都にいます。まだ結婚してませんけど。けど、私はいづれお嫁にいくだろうって親は考えています」

「あそう」

 自分から聞いておいて、「あそう」って……まるで興味のないような返事。

 麻見はただ、テーブルを見つめた。

 時刻は午前2時。こちらはともかく、武之内は遅くまで仕事をした上に一旦寝ていた所を起きてきたのだから、相当疲れているに違いない。

 だからといって、「あそう」の一言はただ胸に沈んでいくだけだった。

「なんか、不安そうだね……。よいしょ」

 武之内は何を思ったか炬燵を抜け出し、座椅子の隣に足を入れ込んで来る。

「えっ!? あっ、寄ります」

 訳が分からず、慌てて座椅子を端に寄せたが、

「そんな逃げなくていいから」

 腕を掴まれ、その手がするりと下に降りて、手と手が触れ合った。

 大きく骨ばった手が私の手を包み込んでいく様を直に見降ろす。

「身体は、大丈夫?」

 左手を握られ、今度は右腕を引っ張られて抱きしめられた。

「……はい……」  

 声が小さく消え入りそうになってしまう。

「なんか変な体勢だね。ベッド行こうか」

「えっ!?」

 何をする気だと、慌てて身体を引きはがした。だが、ちゃんとそれに気づいた武之内は苦笑しながら

「別に何にもしないよ」


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