徹底的にクールな男達
8/9 ただの友達はイケメン
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「よっ」
「わぁお、昼休み?」
レジ担当の隣で袋詰め作業、サッカーをしていた麻見は、今しがた時刻を確認したばかりだが、もう一度レジのデジタル表示を確認し直した。
「外周り引っかけて、ちょっと買い物」
ピシっとスーツのキャリア警察官、相田総伍がレジカウンターに差し出したのは、どこにでもよくある売り出し中のDVD-Rだった。
「一割引きでお願いします」
麻見はレジ担当の女性に素早く指示する。
「サンキュ。助かるよ。給料前だから」
総伍は愛想よく財布を取り出しながら笑った。
「プッ、あそう」
麻見は上目使いで総伍を見つめ、視線を誘った。もちろん彼もそれに応え、パチリと目を合せるとすぐにそっぽを向いて、
「えーと、1360円……」
「あ、旅行の話、全然進んでないね」
メディアをさっとロゴ入りの紙袋に入れ、客の前に差し出す。
「うーん、なかなか行き先が決まらなくなって……ってお前もアイデア出せよ。はい、2000円で」
「早くしないと寒くなるね」
「なら暖かいとこにすりゃいいだろ」
「けどさぁ、雪が積もってるとこ行きたいよね」
「……、じゃもう勝手に決める」
「え、うん。最初からそのつもりだけど」
「…………、あっそう」
総伍は両手で渡された紙袋をさっと受け取ると、後ろに誰も並んでいないことを確認して、「今日何時まで?」。
麻見は、レジスタッフに目で合図をすると、すぐにカウンターから出て総伍に歩み寄り、2人は足並みを揃えて出入り口へと向かい始めた。
「今日ちょっと予定があって。明後日とかは?」
「明後日は無理だな。何? 誰かと食事とか?」
「うぅん、ちょっと仕事で……。私、最近ちょっとまともに仕事し始めてね。今大事な時なの」
麻見は視線の先を自動ドアにまっすぐ送った。隣の総伍の視線をちらりと感じる、だけど知らないふりをして振り切った。
「……今更かよ。最初から仕事くらいまともにしろっての」
「デキる人は違うんだよ。デキない子は頑張らなきゃダメなの」
「…………」
そこで外に出た。外はうだるように暑い。
「じゃ頑張れ。旅行は勝手に計画しとく」
「うん……でも、本当は休み取りづらくて……」
睨むような視線を感じて目を伏せた。でも、事実なのだから仕方ない。
「……、じゃ国内にするか。2泊3日……は諦めて、1泊2日……」
少しほっとして視線を上げただけで目が合った。無しにはさせない、という総伍の強い意思が伝わってくる。それでも、
「土日は休み取れないかもしれない」
心苦しく思いながら、目を逸らした。
「……、じゃ、リッツカールトンでいいよ。平日で」
突然超高級ホテルの名前を出され、
「リッツカールトン……。って、どこの?」
復唱した。
「中央区の」
「中央区の?」
「あぁ。平日アーリーチェックインして、翌日ぶらぶらする。俺は有給とれるから」
2人、取る部屋はもちろん別々だ。ホテルのシングル2つをとったところで、超高級といえどそれほど楽しめるとは思えない。
「そんな近くなくても……。じゃあ、1泊2日でどっか行く?」
「いやあ、暑い! まるで世界が違う!!」
背後から、老夫婦が談笑する声が聞こえて振り返った。
その後ろには、大きな箱の商品を抱えてこちらを冷ややかに見つめる武之内店長がいる。
麻見は慌てて、
「それでは、……お調べしておきます」
「……」
総伍も、ちらとその顔を確認するなり、
「見積もりは早めにお願いします。宛名は先ほどの名刺の通りで」
もちろんきちんと合わせてくれる。
「かしこまりました。それでは、失礼します」
麻見は逃げるように、その場を去った。その後から武之内が、軽く総伍に会釈をする。
総伍はその会釈に軽く応えてから車の方向へ立ち位置を切り替えたが、武之内によくない印象を与えたであろうことは間違いない。
溜息をさっとついて、前を見つめた。売り場には無数の商品が並び、日々売上額と顧客満足度を同時に追いかけている。自分は、一従業員として、そこについていかなければいけない。
やらなきゃいけないことが、たくさんある。
遊んでいる暇なんて、本当はない。
「よっ」
「わぁお、昼休み?」
レジ担当の隣で袋詰め作業、サッカーをしていた麻見は、今しがた時刻を確認したばかりだが、もう一度レジのデジタル表示を確認し直した。
「外周り引っかけて、ちょっと買い物」
ピシっとスーツのキャリア警察官、相田総伍がレジカウンターに差し出したのは、どこにでもよくある売り出し中のDVD-Rだった。
「一割引きでお願いします」
麻見はレジ担当の女性に素早く指示する。
「サンキュ。助かるよ。給料前だから」
総伍は愛想よく財布を取り出しながら笑った。
「プッ、あそう」
麻見は上目使いで総伍を見つめ、視線を誘った。もちろん彼もそれに応え、パチリと目を合せるとすぐにそっぽを向いて、
「えーと、1360円……」
「あ、旅行の話、全然進んでないね」
メディアをさっとロゴ入りの紙袋に入れ、客の前に差し出す。
「うーん、なかなか行き先が決まらなくなって……ってお前もアイデア出せよ。はい、2000円で」
「早くしないと寒くなるね」
「なら暖かいとこにすりゃいいだろ」
「けどさぁ、雪が積もってるとこ行きたいよね」
「……、じゃもう勝手に決める」
「え、うん。最初からそのつもりだけど」
「…………、あっそう」
総伍は両手で渡された紙袋をさっと受け取ると、後ろに誰も並んでいないことを確認して、「今日何時まで?」。
麻見は、レジスタッフに目で合図をすると、すぐにカウンターから出て総伍に歩み寄り、2人は足並みを揃えて出入り口へと向かい始めた。
「今日ちょっと予定があって。明後日とかは?」
「明後日は無理だな。何? 誰かと食事とか?」
「うぅん、ちょっと仕事で……。私、最近ちょっとまともに仕事し始めてね。今大事な時なの」
麻見は視線の先を自動ドアにまっすぐ送った。隣の総伍の視線をちらりと感じる、だけど知らないふりをして振り切った。
「……今更かよ。最初から仕事くらいまともにしろっての」
「デキる人は違うんだよ。デキない子は頑張らなきゃダメなの」
「…………」
そこで外に出た。外はうだるように暑い。
「じゃ頑張れ。旅行は勝手に計画しとく」
「うん……でも、本当は休み取りづらくて……」
睨むような視線を感じて目を伏せた。でも、事実なのだから仕方ない。
「……、じゃ国内にするか。2泊3日……は諦めて、1泊2日……」
少しほっとして視線を上げただけで目が合った。無しにはさせない、という総伍の強い意思が伝わってくる。それでも、
「土日は休み取れないかもしれない」
心苦しく思いながら、目を逸らした。
「……、じゃ、リッツカールトンでいいよ。平日で」
突然超高級ホテルの名前を出され、
「リッツカールトン……。って、どこの?」
復唱した。
「中央区の」
「中央区の?」
「あぁ。平日アーリーチェックインして、翌日ぶらぶらする。俺は有給とれるから」
2人、取る部屋はもちろん別々だ。ホテルのシングル2つをとったところで、超高級といえどそれほど楽しめるとは思えない。
「そんな近くなくても……。じゃあ、1泊2日でどっか行く?」
「いやあ、暑い! まるで世界が違う!!」
背後から、老夫婦が談笑する声が聞こえて振り返った。
その後ろには、大きな箱の商品を抱えてこちらを冷ややかに見つめる武之内店長がいる。
麻見は慌てて、
「それでは、……お調べしておきます」
「……」
総伍も、ちらとその顔を確認するなり、
「見積もりは早めにお願いします。宛名は先ほどの名刺の通りで」
もちろんきちんと合わせてくれる。
「かしこまりました。それでは、失礼します」
麻見は逃げるように、その場を去った。その後から武之内が、軽く総伍に会釈をする。
総伍はその会釈に軽く応えてから車の方向へ立ち位置を切り替えたが、武之内によくない印象を与えたであろうことは間違いない。
溜息をさっとついて、前を見つめた。売り場には無数の商品が並び、日々売上額と顧客満足度を同時に追いかけている。自分は、一従業員として、そこについていかなければいけない。
やらなきゃいけないことが、たくさんある。
遊んでいる暇なんて、本当はない。