甘い囁きは耳元で。
「優香ちゃんは、俺の彼女でしょ」
それは、たしかにそうだ。
だって、ここは彼の家。
昼間顔を合わせている場所とは違うのだから。
それに、お互いにこれからあることだってわからない
なんて、言えないくらいの年なんだから。
「そう、だけど」
「じゃあ、俺のために頑張ってね」
こういうやりとりに、年上の彼の魅力を私は感じている。
どこか、手のひらでうまく転がされているような、そんな柔らかい感覚に包まれていることが幸せだと感じている自分に最近気がついた。
手元の資料はいつの間にか伏せられて、伸ばされた手が触れる。
ちょっと日に焼けた肌の色が男らしい、なんて少し前の私は感じもしなかった、はずなのに。
その手が、わたしの腕を掴んだ。
そっと、優しく。
今までの恋愛と比べてもいいことなんてない
そんな風に友達は言うけど。
私は、比べれば比べるほど「鈴木 和樹」彼が魅力的だと思ってしまうのは恋の魔力だろうか。
「ねえ、そこは『和樹のために頑張る』っていうところだよ」
「え、そういうの望んでました?」
「ちょっとね」
何も言えなくなった私に軽口をたたくように彼は言う。
幸せだ。
少し前にあった恋愛を思い出して、今の幸せを改めて感じる。
こんなにも、今の私の幸せさを感じさせるのだから
やっぱり、しなくてよかった恋愛なんてひとつもないのかもしれない。