お兄ちゃん……


 私の父は、母と同じく50歳で、家の近くのクリニックで院長をしている。

 ちなみに、兄の湊はそこで働くお医者様。

 私は、別の病院で受付事務をしていて、母は専業主婦だ。

「ってか、そんなにいっぱいだったら、お兄ちゃんも早く行かなくて良いのかな」



「いいんだよ、俺は。博信(ヒロノブ)さんに遅くて良いって言われてるんだから」

 寝ていた時のボサボサ頭をいつ整えたのか、シャツを着たお兄ちゃんがリビングに現れた。

 スラッとした長い足に、整った顔。まるで、モデルみたいでかっこいい。

 それを見るだけで、私はドキドキする。

「博信さん、なんて言い方変えてお父さんって呼んで欲しいってあの人言ってたわよ」

「すいません、孝子(タカコ)さん。どうしても慣れなくて……」

「私の事も、お母さんって呼んで欲しいわ」

 のんびりとした声で母は料理をしながら言う。

 この家に来た時から、お兄ちゃんは両親の事を名前で呼ぶ。
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