蒸発島

海の中には二藍がいて、私に笑いかけていた。


 二藍は島の中心部にある穴の前で止まった。
 穴を覗いてみる。そこには透き通るような青い水が張っていた。
 蒸発島の周りにも綺麗な海の水が一面にあるが、それとはまた違った輝きがあり、吸い込まれると錯覚するほどの綺麗な水だった。

「なにこの水。綺麗……」
「この水が死人を癒すのだ。不治の病でも、長い時間をかければいずれは癒えよう」
「へえ、不治の病でも治るんだ」
 関心して水を見た。治らない病気がないなんて信じ難いけれど、こんな不思議な空間――たしか現実と黄泉との隙間にある場所、と言ってたっけ――にある水なんだから、常識が外れていてもおかしくは無い。 

 気付かれないように、二藍を見る。
 水を見つめる二藍は、――透き通るかのような白い肌だった。
(本当に、不思議な子……)
 少し偉そうな口調、強引なところ……。初めは迷惑だと思っていた。けれど、どうしてだろう、何故だか分からないけれど、嫌いになれなかった。
 彼女の悲しみの瞳には、子供の顔だとは思えないほどの憂いを感じさせられる。彼女の身体では耐え切れないほどの重みが、彼女を苦しめているのではないかと勝手に勘ぐってしまう。

 彼女は笑っていないといけない、そう思った。――或いは、そう思いたかった。
 それは、透き通る彼女の肌があまりにも綺麗で、そのまま消えていってしまうのではないかと不意に思ったからかもしれない。

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