蒸発島

 *

 足から徐々に体が沈んでいく。頭まで完全に入った時、上を見た。よく考えると、島には太陽がなかった。でも辺りは白いものがたくさん飛んでいて……明るかった。
(魂……とかじゃないよね)
 私は、基本的には非科学的なものを信じていない。霊感がないし、金縛りに遭った事も無い。見たこともない幽霊の存在を信じろというほうが無理だ。

 では二藍は? ……会った時から何かが違うと思っていたんだ。しかし可愛い笑顔、繋いだ手の温もりが恐怖心を消していった。蒸発島――死者がいる島。私は今まさに死人に会いに行こうとしている。

 入り口が遠ざかっていく。二藍は……かなり下の方から私を見ている。少し狭い穴を沈んでいく。
「早く来い。泳げないのか?」
 二藍が喋った。水の中にも関わらず、はっきりと聞こえる。
「息が苦しそうだぞ。深呼吸しろ。大丈夫だ、この水は現世にはない特殊な水だ。
 ほら、喋ってみろ」
 二藍が何度も息を吸って、喋っている。私はそろそろ息が苦しくなってきた。
「ほら、喋れって」
 二藍が馬鹿にするような顔をした。上を見る。入り口はもうよく見えないけれど、頑張れば戻れない距離ではない。もし水を吸って息が出来なくなったら急いで戻ろう。

 恐る恐る口を開けて吸ってみた。

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