蒸発島
「……はあっ」
 一分ほど息を止めていたため、胸が苦しい。何度も呼吸をして息を整えた。
「し、信じられない……! 水の中で話せるなんて……」
 それは初めての経験。今までの常識が覆された。
「そのうち慣れる。
 では行くぞ。ここからは広いからな。ついてこないと逸れてしまうぞ」
 見渡せばここはロビーの様な所らしく、かなり向こうの方に病室がちらりと見える。電気は点いていないが明るいため、不気味さはあまり感じない。しかし……病室に死人という組み合わせは、嫌でも悪い想像をしてしまう。
(二藍と居れば大丈夫……だよね?)
 出逢ったばかりの小さな少女に頼りきりなんて、情けない話だ。

 しばらく泳いでいると、病室が並んでいる所に着いた。
「ほとんどが大部屋だ」
 見ると確かに六人で一部屋の病室が多かった。一人部屋は少ししかない。
「一人部屋に入る人って、どんな人なの? 現世で偉かった人とか?」
「……うむ。まあそういうのも居るが、ここは死人しか居ない病院だ。見舞いに来る人なんて居ない。だから、一人部屋に居る人は本当に一人になりたい奴しか居ないんだ。
 ここには娯楽がないからな、暇をつぶせる方法が人と話すぐらいしかないんだ。どんなに偉そうな奴でも、暇には勝てない。入院したばかりの人は一人部屋を選ぶんだが、そのうち淋しくて大部屋に入れてくれと言い出す。
 偉かった人も、そうでなかった人も、ここでは関係なく平等なんだ」
 
 格差がない場所。現世でのぎすぎすした各社社会の中で生きている私には、なんとも羨ましい話だった。


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