蒸発島

 現世へ何度も赴いた。けれど私はどうしても彼の言うことに同意することが出来なかった。
 現世を彷徨って何が悪い? 私はまだ死にたくなかった。もっと生きたかった。楽しいことをもっとしたかった。色んな経験がしたかった。なのに……。
(それはもう二度と叶わない。夢を見ることさえも許されない――)

 未練があって当然だ。特に私の様に不運な事故で死んでしまったものは、死んでも死にきれない。

 現世にしがみついていたいのだ。自分の場所がまだあると信じていたい。それはそんなに悪いことなのか? 死んだらそれで終わりなのか? 私にはまだ意思がある。動いている。現世に行ける。現世の人と話せる。それでも――人として生きては駄目なのか……?

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