蒸発島
生きているのではなく、生かされているのだろう。
見慣れた通学路。上を見て歩く気力もなく、ふらふらと学校へ向かう。
「お姉ちゃん」
私には兄妹はいないし、年下の従兄弟もいないので、お姉ちゃんと呼ばれた経験がなかった。
「お姉ちゃんってば」
だからその子が私を呼んでいるということに気付くまで、少し時間が掛かってしまった。
「お姉ちゃん!」
「へ? 私?」
私の前にちょこんと立っている、六歳ぐらいの女の子。天使の輪がある綺麗な黒髪は長く、腰辺りまである。真っ白な肌は透き通っていて、黒くて大きい真ん丸な瞳が際立っている。私を見上げるその瞳は強く、その辺りにいる子供とはどこか違う印象を受けた。
しかし私は忙しい。学校に遅れてはいけないし、見ず知らずの子供に構う気は無かった。
「あのね、お姉ちゃん急いでるの。それじゃあ」
迷子なら近くに交番があるし、幼稚園もあるから人通りが多い。わざわざ私が世話を焼く必要は無い。
「風子」
「へ?」
知らない女の子が、私の名前を呼んだ。
「風子。私について来い」
「ついて来いって言われても……。あなた何? 誰なの?」