蒸発島
「偶然目の前で事故が起こりまして……。
霊魂が行き場を無くし彷徨っていたので、連れて参りました」
「偶然、か。それにしてはよくあの場所に居るようだが」
「…………」
彼は私から目を逸らした。呆れているのか、同情しているのか――表情が読めない。恐らく三十代であろうその顔は、日々の疲れのせいかかなり老けて見える。貫禄があり、目つきが厳しい。
「……まあ良い。で、その人間は今何をしている?」
「寝ています。恐らく、現世で意識を取り戻しかけているのだと思われます」
「そうか。しかし霊魂が体を離れたのだ、しばらくはここで様子を見るといい」
「はい、ありがとうございます」
彼はそれ以上は何も言わなかった。私も特に話すことがなかったため、部屋から出ることにした。
「それでは失礼致します」
「――二藍」
遠慮がちに呼ぶ。その声はとても寂しそうで、辛そうだった。