蒸発島
「私か? 私は二藍だ」
「フタアイ……?」
やはり聞いたことのない名前だった。
「ねえ、二藍ちゃん。迷子なの? お姉ちゃんね、急いでるの。交番ならそこにあるから……」
「私は迷子ではない。それより、私のことは二藍でいいぞ。
さあ、早くこっちへ。ここでは人が多すぎる」
二藍に手を引かれて、脇道の方へ入っていく。
「ちょっと、いい加減にしてよ! 私これから学校なんだから!」
二藍の手を振り払って怒鳴ったが、二藍はけろりとした表情でもう一度私の手を掴んだ。
「なに、すぐ済む」
引っ張る手は強く、意思を感じた。私のように、目的もなく歩いているわけではない。
なんとなく行かなければならない学校。受けなければいけない受験。そういったものは私に倦怠しか与えなかった。