蒸発島

 *

「二藍」

 風子の様子を見に行くために廊下を歩いていたところを、急に現れた瑠璃に呼び止められた。
 突然現れる彼女にいつの間にか慣れてしまっていたので、私は足を止めることなく、ちらりと横目で姿を確認するだけだった。

「ちょっと、なんで無視すんの?」
「……なんか用?」
「なに怒ってるの?」

 瑠璃は笑っている。おおかた分かっているのだろう。

「関わるなと言ったはずだけど?」
「うん、風子でしょ。まあ、仕方ないよね、あ、待ってよ、それが僕の仕事だからさ、仕方なかったんだよ。
 でさあ、なんか……あれだよね。無知って罪だよね。本当に何にも知らないんだよね」
「生きている人間がこの島のことを知る術は無い」

< 50 / 59 >

この作品をシェア

pagetop