蒸発島
二藍には不思議な力を感じた。少なくとも、学校や受験よりはよっぽど魅力がある。
遅刻してしまうけれど、もう少し二藍に付き合ってやろうと思った。
それは日常からのちょっとした逃避。子供に手を引かれて、どこに連れていかれるのか分からない。そんな「いつもの日常」とは違う今に、胸が躍る。
「ここだ」
二藍は、出逢った場所から走って二分ほどで来れる寂れたバーの前で止まった。
「何? ここ。お酒飲む所だよね?」
酒など飲んだことは無かったが、益々身体が高ぶった。自分がこんなにも非日常を望んでいたなんて、知らなかった。
バーの看板には菖蒲と書いてある。創立から大分経っているらしく、壁には蔓や汚れがたくさん付いていた。しかしまだ比較的新しそうなネオンが取り付けられているため、営業している様子が窺える。
「ねえ、二藍。ここは夜に来る店だよ。今は朝だから、多分閉まってるよ」
二藍は私を無視して、バーの扉を開いた。