蒸発島

「ちょっと、開けちゃっていいの?」
 二藍は気にする様子もなく、自分の家に入るかのようにずかずかと進んでいく。
 外に一人で立っているわけにもいかず、二藍の後を追った。
 
 中は真っ暗でよく見えないが、適度に狭く、懐かしい感じのする店だ。
 酒と煙草の臭いが充満していて、思わず顔をしかめた。

「臭い……。ねえ、もう出ようよ。誰かに見つかったら怒られるし……」
「いいからこっちへ来い。風子に会いたいと言っている人がいる」

 二藍に手招きされ、渋々と奥に進む。
 私に会いたい人って、いったい誰だろう。
 テーブルを頼りに暗い部屋を進んでいくと、突き当たりに扉があるのが見えた。

「この扉の向こうにいる。さあ、心の準備はいいか?」
「心の準備? え、なんで?」
「では行くぞ」

 話を聞かない二藍に慣れてきた私は、特に警戒もせず、隣の部屋へと入っていった。


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