ありがと。
「おい、待てよ!何やってんだよ!!危ないだろーが!!」
手をつかまれ後ろに引っ張られて尻餅をついたあたしは見知らぬ男を睨んだ。
「なんですか?離してください!」
「いやいや。死のうとしてる奴目の前に邪魔しない奴なんていねーだろ。」
見知らぬ男はイライラした様子で言った。
あたしは服のスカートについた泥を払いながら立ち上がった。
「あっそ。分かったから早くどっか行ってくれないですか!?」
「どっか行ったらお前また死のうとすんだろ?」
「そーですけど何か?」
あたしは遠くを見ながら言った。
「あのさ…すぐ死のうなんて考えんなよ。お前、こういう詩知ってるか?“今あなたが死にたいと言った今日は昨日、明日を生きたいと言って死んだ人の今日なんだ”って詩…」
「な…悩みなんてないし!!あんたにあたしの何が分かるのよ!!」
「…なんで目見て言わないの?俺が偉そうにいえる立場じゃないんだけど…さ。」
なんか、さっきとは違って優しいんだけど何か悲しげな彼にあたしは心を奪われそうになった。
それに今まで、相談に乗ってくれる人も居なかった。
今まで私に向けられた言葉は、親が事故死してからずっと…
“私じゃなくてよかった”
“不幸な可愛そうな女の子”
ぐらいだった…
この人はちょっと違うと思った。
あたしと同じ匂いがした
「あたしの話聞いてくれる?」
あたしは、名前も知らない彼の顔を見てそういった。
「いいよ。何でも聞く」
彼はそう言って、フェンスにもたれた。
彼は屋上で昼寝でもしていたのだろうか、
寝癖を直そうと髪をいじりながら言った。
「引かないでね?あたし…癌なんだって。…バカみたい…。」
あたしは涙があふれそうになるのを必死で我慢して言い切った。
「・・・なんで泣くの我慢してんだよ。泣きたい時は泣けよ。自分の心に正直になれよ。」
彼がそう言い終わるとあたしの匂いとは違う香水の匂いに包まれた。
あたしの中で何かが切れたように大粒の涙が出てきた。