咲かない桜と散らない梅
「この状況でそれを言うの?君、絶対将来大物になるよ。」
男は笑ったまま、俺に手を差し出してきた。
「一緒に来ないかい?」
「………どこに?」
「んー、そうだね。とりあえずお腹が満たされるところかな。」
ね?っと、男は首を傾げて見せた。
俺はそっと手をかざした。
握ってきた手のひらは、大きくて、温かかった。
右手を引っ張られるように立ち上がって、歩き出した。
「君、名前は?」
「……名前?」
「そう。」
「……持ってない。俺が持ってんのは、こんだけ。」
左手にあった長刀を見せた。
「これしかないんだ。」
そう言うと男はちょっとだけ悲しそうな顔をした。
それが何故だかは俺には分からなかった。
「じゃあ僕が決めても良いかな?君の名前。」
ぎゅっと手を握りしめられた気がした。
俺は頷いた。
「そうだなぁ……紅陽(コウヨウ)なんてどうかな?」
「コウ、ヨウ……」
「うん。君のその綺麗な紅い瞳と空に上がる太陽をかけて。ちょっとセンスないかな?」
「………ううん。いい、気に入った。紅陽、俺の名前。」
良かった、と男が笑うから自然と俺も笑っていた。
「……あんたは?名前、なんて言うの?」
「僕?僕は――――」
これは、俺の最初の記憶だ。