咲かない桜と散らない梅
僕は、閉ざしていた瞼をそっと開けた。
「なんだ?てめぇは」
僕を囲う男の一人が問う。
視線の先には、一人の男。
目を細めてにこにこと笑う顔。
腰に刀を差しているところを見ると侍か?
「ただの通りすがりの旅人、かな。」
「あ?関係ねーんなら引っ込んでろ!」
男の牽制も聞かず、そいつはスタスタと僕たちの方に近付いてくる。
「関係はないんだけどさ。それ、そういう事に使うものじゃないよ。」
男の指す“それ”とは刀の事のようだ。
「俺は、刀をくだらない命取りの道具にする奴が大嫌いなんだ。」
男の顔から笑みが消え、細められていた瞳が開く。
その瞳は、
――紅い、真紅の瞳だった。
あまりに鋭い目に、周りの男たちも一歩引く。
「なんだ、てめぇは!薄気味悪い野郎だな!!」
「おい!待て!!」
突っかかっていこうとする男に、仲間の一人が顔を青ざめさせて制する。
「その紅い瞳……間違いねぇ……逃げるぞ、てめぇら!!」
「あ?何でだよ?」
「いいから!早くしろ!!」
男の慌てように、仲間の男どもも次々と足早に逃げていく。
その場に残されたのは、僕と紅い瞳の男。