甘い囁きが欲しい

彼の自宅近くであったあと、終電にも近い時間で帰り、家までつくともう、深夜へと時間は変わっていた。
私が頑張れば、彼は少しでも負担にならない。


そう思っていつも、彼の元へと出かけていった。



だから、次の日の朝、仕事に行くときは体のだるさと昨夜の自分を思い出していつもより胸が強くチクチクした。




「おはようございます」

廊下ですれ違った鈴木部長に頭を下げて、オフィスに入ろうとした瞬間


自分の意志とは反対に、後ろへと引き戻される。
掴まれているはずの腕に触れている手が、優しい。


「え」
「萩原さん」
「部長?」

私を呼ぶ声は、今日も変わらない。
穏やかで優しい声

「お願いがあるんだけど、いいかな?」

下がった眉毛に、困ったようにむけられる視線。
思わず、仕事で何かあったのかと冷や汗を感じ慌てて体ごと向き直る



「なんでしょうか?」
「・・・来週の水曜日、残業を頼まれて欲しいんだ」



今日一番衝撃的な発言に、おもわずめまいがしそうだ。


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