甘い囁きが欲しい
金曜日の夜
「萩原さん、上がれる?」
時計はとうに定時を回り、フロアには私と部長を残して誰の姿もなかった。
「あ!ごめんなさい、部長もしかしてお待たせしてましたか?」
「ううん。資料のチェックしてたから。俺はキリがいいから萩原さんのいいタイミングで上がろう」
「私も、大丈夫「待ってるからキリいいところまでやりな」
私の言葉を待たずに、部長は手元の資料へと再び目を落とした。
部長にはかなわない。
小さく頷き頭を下げてから、少し時間を頂いた。
申し訳ないな、そう思う。
「お待たせしました、部長」
「ううん、俺もやることあっただけだよ。
それに、待つことは苦じゃないんだ」
穏やかなこの人は、本当に優しい声を出す。
痛む胃に優しく蓋をしてくれるような声
「さて、何食べようか?」
「部長は何か食べたいものないんですか?」
「うーん・・・家庭料理?」
「え?」
「冗談冗談、そうだなー」
部長とだったら、軽く会話もできる。
彼より、年上なはずなのに。