甘い囁きが欲しい
また、出てきてしまう彼を追い払うように今日のメニューを悩みながら二人で駅へと向かう。
「萩原さんの最寄駅には何か食べ物屋さんある?」
「そうですねー、ファミレスと居酒屋くらいですよ」
「じゃあ、その居酒屋いこうか」
「そんな悪いですよ!部長帰るの大変じゃないですか」
当たり前のように改札前まで来てしまったが不意に足が止まる。
私は、そういう扱いに慣れてないんだ。
「女の子、夜遅くなってひとりで帰すわけにいかないだろ。
はい、部長命令って権限を使うよ?」
会社から一歩出れば、部長の話し方は少しだけフランクになる。
飲み会や数人でご飯に行った時からそれは感じていた。
ちょっとした変化でも、なんとなく気づいていた私を部長は分かっているのだろうか。
「じゃあ、近くの居酒屋でお願いします」
もっと、素直に甘えられたら私の「イマ」の状況は違うのだろうか。
そんなこと、自分が悪いのに。