甘い囁きが欲しい
一歩
「すみません、たくさん話を聞いていただいたのにごちそうにまでなっちゃって」
年上のものましてや、俺は彼女にしたくて必死な子にご馳走することは当たり前なのにこの子はすまなそうに頭を下げる。
「んー?次は割り勘な」
背中を軽く叩いてやれば安心したように、笑って緩んだ表情。
ほんのり、お酒が入り赤くなっている頬といつもよりもゆっくりした口調。
仕事のあとに、ゆっくり飲んで、男の話を聞いて、振られて、終電間近の時間まで二人で過ごし・・・慌ただしい過ごし方をした。
俺の気持ちも、彼女の気持ちも上がっては下がり、そしていつもの位置に戻ってきた。
「御免ね、優香ちゃん」
「鈴木さん、なんで謝るんですか?」
「胃の調子あんまりよくなかっただろ?なのに飲むの付き合わせて」
振らてたとわかっていても、簡単に諦めるほどやわなものでもなく。
それでいて、気まずくならないようにもっていけるほど、自分は年をとってしまったのだろうか。
「話聞いてもらえて、本当に良かったです。
いろいろ、ありがとうございます」
「ううん、そんなことないよ。ほら、また二人で飯でも行こう。
おすすめのラーメン屋さん教えっこしよ」