甘い囁きが欲しい

「たまには、ゆっくりしたいよね」
「あ、でも、仕事のあとにでも会えたら嬉しいですよ」

困ったように言う彼に、私は慌てて否定をする。

そんな顔をさせるくらいなら、私は我慢だってできる。


好きな人には笑っていてもらいたいから。

好きな人には困って欲しくない。


でもこれは、私のエゴであって彼の考えとはイコールにはならない。



「優香ちゃん」



不意に耳元に響く少し低い声。
おもわず体が震えた



「優香ちゃん」



名前を呼ばれるたびに、泣きたくなる私の気持ちを彼は知っているだろうか。
知っていたら教えて欲しかった、物知りな彼ならわかるのだろうか。


「松木さん・・・」

促されたように目を伏せれば唇に重なった唇。



「行こうか」

いつの間にか腰に触れた彼の腕は有無を言わさずきらびやかなホテルへと引き込まれる。




今日も、私は何も言えない。



今日も、私は何も聞けない。




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