お茶の香りのパイロット

機動性のあるスーパードールに対抗する目的がすべてになってしまっている格納庫だった。

フィアはリンダと喫茶店を切り盛りしていたが、現在は店長不在で副店長であるカイウが店の責任者ということになっていた。


「はい、コーヒーセット2つできたよ。」


カイウもアルミスとはタイプは違うがお店ではそれなりにひいきの客もいて、店長としての存在はしっかりとしたものだった。


「ねぇ、カイウさんの方がお店には向いてるんじゃないの?
アルミス様がわざわざ忙しいのになんで、店を気にするのかしら?」


「フィア・・・本気でそんなこと言ってるの?
お店はアルミス様の存在なくしてはあり得ないのよ。

世界をよくしていくっていうのは戦えばいいってもんじゃないの。
そりゃ、裏は対スーパーお人形さんで大変だけどね、そこだけ止めたからって全体はよくならないのはわかるでしょ。
アルミス様は事情はあるにしてもやっぱり王子様特有のカリスマ性とか輝きを持っておられるの。」


「うん、それはわかるけど・・・あんまり忙しすぎるし、それだったら私なんてかばわなければいいんだし。」


「フィア、それ本気で言ってるの?
かばってもらっていちばんうれしくないの?」



「うれしくなんてないわ。
私をかばったせいで、ボロボロで痛い思いしながらそれでも仕事ばかりして・・・。
みんなを守りたいって言ってるのに、自分は自殺行為みたいなことして、そういう人を見てると私はものすごく腹がたつの。

休むべきときは休んでから、開発でも戦闘でもお店でも参加すればいいのよ。
中途半端にうろついて、このお店だってカイウさんがよく文句もいわずに切り盛りしてるな~ってお気の毒に思っちゃうわ。」


「フィアはアルミス様が嫌いになったの?
それでずっと話をしないの?」



「かばってもらったから感謝はしてるわよ。
でも、なんか腹がたって・・・アルミス様のこと考えないようにしてるだけ。
その方が、イライラしないもの。
できることだって、このお店のお手伝いくらいしかできないし・・・。」



「フィア、ちょっと奥にこれを持っていってやってくれないか。」


カイウに呼ばれてフィアがカウンターに行くと、フルーツたっぷり飾ったパンケーキとミルクティーのセットが用意されていた。


「誰か注文してきたんですか?」


「アルミスが食べたいそうだ。」



「格納庫で仕事してるんだから、お店か調理場で食べればいいじゃないですか。」


「いいから持って行け。店長命令だ!
僕はアルミスを誰よりも信じてるつもりだ。
あいつは、僕が不満に思うようなこともいつもお見通しなヤツでな、必ず考えがあってがんばってるんだ。

君をかばったことも、今開発に必死になっていることも体中の痛みも全部ひっくるめて、みんなのためだけど自分のためでもあって突っ走ってるんだと思う。

ついでに、僕から頼むけど、これを君が差し入れてやってくれれば、アルミスの体の痛みはかなりひくと思うから行ってくれ!」


「カイウさん・・・。
やっぱりカイウさんが店長の方が私はいいと思います。

じゃ、持って行ってきます。」



フィアは格納庫の方へと入っていった。


「はぁ、フィアは素直じゃないから。
いちばん心配してるくせに、わざと口きかないし、腹が立つとか言っちゃってさ。」



「世渡り慣れしたリンダ嬢と違って、フィアは戦闘しか勉強してこなかっただろ。
けど、彼女は年相応のカワイイ乙女なんだってことだよ。あははは。」



「サブマスターって経理やお金しか口を出さないのに、黙って女性の値踏みもしてたんですね。」



「おい、リンダさん・・・僕はおいしいものを売ってるんだよ。
値踏みとか守銭奴とかいう肩書きを押し付けないでくれるかな・・・。」


「はぁ~い。仕事仕事~~~っと。
おいしいものが売れたんですね~~~。こっそり、店のパソコンで株で大儲けしてたんですよねぇ~。
イヒヒヒ・・・。」



「ビジネスだよ、ビジネス・・・これが僕の戦闘だから。」
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