お茶の香りのパイロット
その頃、アーティラスは元の自分の故郷だった宮殿の近くに地下基地を築いており、自室で苦しみに耐えていた。


「い、痛い・・・手も、足も、腰も・・・錆びついたように動きが悪い。
魔力も少し減退している。

きっとルイリードが俺の体ごと死んだからだな。
俺の本当の体が死んで、このルイリードの体が傷みだしたか・・・。
動き悪いといけないからってあいつの一部など切り取らなければよかったな。

この体がダメならば結論は1つだ。

弟のアルミスから体を奪ってやればいい。
あいつの魔力など母親に封じられた欠陥能力だ。

僕が奪って、魔力開放してやれば・・・フフフ。

真面目しか取り柄がないアルミス。
もらうものさえ、もらえば・・・おまえもロボットたちもスクラップ同然だ。」




「っ!!!これは・・・アーティラスの思いか?
私の体が狙われる。・・・そういうことか。
ふふふ、これは実戦での実験が面白いことになりそうですね。」


アルミスもまた、アーティラスとの再会を狙うのだった。



そんな敵対する2人のことすら、まだ何も知らないフィアはルイフィスの2才の誕生日のプレゼントを用意していた。


「あら?フィア・・・ルイの名前なんだけど、アルミスの子になるのに、ルイリードの姓なの?」


ディーナはふと気がついたことを素直に尋ねた。


「ええ。アルミスはほんとは自分の姓を継がせたかったと思うんだけど、この世界のために倒す敵と同じ姓ではルイがあとで傷つくことになってしまうんじゃないかってね・・・誇り高い戦士の息子が英雄になったときにふさわしくってリアンティルの姓を名乗らせるつもりなの。」


「そういうこと・・・。アーティラスが混乱の中心で大罪人となったらロングリエの名は腐ったも同然になってしまうのね。
アルミスはその腐ってしまった名前をひきずっていくのかしら。」


「わからないわ・・・でも王様の愛機を受け取った以上、もとの名前にはもどらないと思う。」


「難しい関係ね。だけど、私だって自分の運命の中で、1つ1つ自分が決めていったことなら、後悔はしないつもりよ。
もしも、死んでしまったなら、その直前の自分の名前を残してほしいと思う。」


「縁起でもないことを言わないでよ。ディーナも他の仲間もアルミスとルイフィスと私とで、きっと守ってみせるわ。
ルイリードはアルミスが魔力を開放した時点で負けはなくなると言ってくれたもの。」


「信じてるのね。だけど惜しい人を亡くしたものだわ。
あの戦い方といい、結界といい、セイリールの性能といい、すばらしい科学者で魔法騎士よ。
もっと早く、合流していればリーダーとして力を発揮してもらえたかも。」


「それはないわ。ルイリードは村のご婦人すべてに慕われる産婦人科の先生なの。
彼の本当の姿と理想は戦うことでもなく、ロボットの開発でもなく、生身の人間の誕生よ。

冗談半分でいやらしいとかエッチとか言われながら、苦笑いで仕事をこなしていくのが理想だったのよ。
亡くなった奥さんはそういう旦那様を尊敬していたの。

もちろん私も・・・。」


「なんか信じられない話。だけど、感動的な話だわ。
そうね、人間の誕生と死は尊いもの。

口で言うのは単純で簡単だけど、その原点を守ることはこれからの熾烈極まりない戦いで勝つしかない。
とにかく、やれるだけのことはがんばりましょう。」


「ええ。じゃ、これから私はアルミスとセイラーガの調整に入るからいくわね。」



フィアはルイフィスを連れて、アルミスの部屋へと向かった。


「フィア、アブリールの調整はうまくいきましたか?」


「ええ。ここに持ち込まれたときは怨念にも似た感情を感じたこともあったけれど、今はとても崇高で清々しいくらいの気を感じます。
さすが、国王様の愛機ですね。」


「ええ。で・・・その崇高なアブリールにワガンとディーナに乗ってもらおうと思うのです。」


「えっ2人で?でもワガンたちには魔力はないのに・・・」


「大丈夫です。宝石、宝玉の力がありますから、王がそれらをすべて守ってくれるはずです。
私たちは、親子の絆をセイラーガで発動しなければなりませんから、アブリールの面倒は見れません。

だがアブリールは父上の願いと希望を担っているから、私たちを包んでくれます。
だからこそ、ワガンたちに頼むのが適切だと思う。」


「そうね。さっきディーナとも話したけれど、私たちはルイリードが人間の誕生を原点に考えていたように生命の尊さや正しき行いが理解される国のために魔力を発動させなきゃいけないわ。」
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