お茶の香りのパイロット
4時間ほど経過して、遅めの晩餐をアルミスは食べることになった。
「うまい!だけど、フィアも疲れてるだろう?
君だって魔力は弱いものの、あれだけの解析をしてくれてたんだから。
食べたらゆっくり休むんだよ。
ルイフィスが起きたら、私が何か食べさせて寝かせておくから。」
「ありがとう、アルミス。
私本当に心配だった・・・ルイが本当に10才の姿にはなれても、あなたの役に立てるかどうか・・・心配で心配で・・・。
もしアーティラスに体を取られてしまったら・・・って考えたらすごく恐ろしくて、シートの前で手が震えていたわ。」
「だけどルイフィスは大活躍だったろ。
ルイは賢くて勇敢な子だよ。
私が魔力をひっぱって彼の頭脳に働きかけたら、耳をつんざくほどの力強い波動が返ってきてた。
あれは、兄のルイリードがたくさんの敵を相手に果敢に攻めていくときの気迫だよ。
ルイリードが話してくれてたように、私の魔力はルイより弱く、それを科学で補うだけ。
なのに、ルイフィスは持って生まれた勇気とすぐれた魔力で私の整備したロボットたちをより強く送り出してくれた。
ほんの30分間だったが、彼が10才になるのが楽しみだ。
もちろん、これからはいいことに魔力は使ってもらうけどね。」
「そうね。ルイが10才・・・あと8年ほどの間にやることは山積みよ。
まだテロ行為はあちこちで起こっているんだもの。
放っておけばまた、アーティラスのような厄介な敵になってしまうかもしれないし、そうならないようになるべく崩壊した国は復活してきちんとした政治をしてもらいたいわね。」
「まあ、それは私たちの仕事じゃないよ。」
「どうして?アルミスはウィウスの国の王にならないの?」
「ああ。ウィウスはない。
タンガ軍とくっついたり離れたりで、どちらが優遇なんて考え方は捨ててもらえるようにしたんだ。
いずれ近いうちに双方の代表を中心に、議会中心でやっていくことになるだろうね。」
「じゃ、アルミスはこれからどうするの?」
「家族みんなで水入らずだよ。」
「だから、それは生活の話でしょ。
あなたは何して食べていくのよ。」
「いつもと変わりないよ。
この基地は研究所になって、人の役に立つロボットや機械を作っていくし、私は喫茶店のマスターさ。」
「えっ・・・まだやる気なの?」
「当たり前だろ。私からお茶の香りがしなくなってしまったら、誰がどこに助けを求めに来るんだよ。
これからはルイにだって店の番をさせるつもりだから、台所に立たせるのを止めたりしないでおくれよ。」
「まぁ・・・それはいいけど、あなたは若い女性ばかりを相手にしないでほしいわ。」
「あ・・・。了解。今度、店につっこんで気を失った女の子の面倒はカイウかナオヤに頼むことにするから。あははは。」
「へ、へへへへ・・・(*`<´)・:∴ ヘーックシ!!」
「∵ゞ(>д<)ハックシュン! ナオヤと同時にくしゃみとは・・・誰かが噂してるんでしょか。」
巨大ロボットの整備をしながら、紅茶をたしなむ魔法の国の王子様は、普通に暮らす人たちのために、日々セイラーガとともに奔走していて、それは息子が成人になるまで続くのだった。
息子が父親の後を継いでセイラーガを扱うようになる頃には、妹が2人と弟が1人増えていた。
そして・・・研究所の休憩時間には、眼鏡をかけた彼が以前と変わらないお茶の香りをさせてくれる。
「フィア、アフィニを出してくれないか。
そろそろお茶っ葉がきれそうなんだ。」
(地の果てにでもお買い物にいくのかしら・・・この人ったら。
そんな夫といるのが飽きない私が、ここにいる。)
おしまい。