世界で一番、ずるい恋。
「前言撤回」
「……え?」
「今日だけは阿波の良い友達でいてやる、だから……」
ふいっと、顔をそらし「んっ」とだけ言いながら千堂くんは両手を広げた。
ズルいよ。
だって今こんなことされたら、私……私。
屋上の扉の前。
しかももうこんな時間になると誰も来ない思う。
「ごめんね……っ」
そう言うと私は目の前の彼の胸へと、飛び込んだ。
お願いだから、今日だけは。
今、この瞬間だけは千堂くんの優しさに甘えても良いですか?
「……っ………」
今この瞬間だけは、泣いても良いですか……?
「バーカ。こういう時はありがとうだろ?」
少しだけ呆れたように言うと、千堂くんは私をギュッと強く抱き締めた。
少し強すぎる力が、感じる痛みが、この瞬間は現実なんだって私に突き付ける。
だけど腕の中はあまりに温かくて、一筋の涙が頬を伝う。
「我慢すんな、泣け。泣き止むまで傍にいてやるから」