世界で一番、ずるい恋。
──律 Side──
「ねえ、千堂くん…」
隣に立つ麻野の俺を呼ぶ声が震えていた。
でも、どうしたら良い?……頼むから、そんなことは聞かないでくれ。
俺にだって分からないんだから。
校舎の柱の影に隠れる俺らの視線の先にはーー阿波と矢野。
阿波が昨日の放課後、矢野に彼女がいることを知ってしまったのは気付いてた。
そして、それが俺の前の席の女だってことも。
いや、違う。
俺は彼女がそれに気付くようにあの場所へわざと向かわせたんだから。
だって、こんな行動に出るなんて欠片も思ってなかったから……。
教室を飛び出した阿波に何だか嫌な予感がして、追いかけた。
授業中も矢野がいるってのに上の空で、時々矢野を見つめる視線が遠くの席の俺でも分かるくらいに冷たくて。
何だか、胸騒ぎがしたんだ。
それは隣の席で阿波の親友の麻野も同じだったみたいで。
「ねえ、茜が言ってることは本当なの?矢野先生はーー…っ」