世界で一番、ずるい恋。



もし、あの瞬間に戻れるとしたら俺は。

落ち込みまくった状態できた阿波を再び数学準備室に送り出さずに、慰め続けられただろうか。


矢野のもとに、あの女が来てると察しながら、傷付いてしまえば良いなんて思う自らの感情を殺せるだろうか。


昨日の阿波を抱きしめた感触が微かに残る腕を摩る。



でも、矢野も矢野だと思う。

タブーを犯すならバレるなって話だ。俺が知ったのも、あいつに警戒心が無さすぎるせいだ。

タブーだって自覚が、欠片もない。


……数日前の昼休み。

学校に仲の良いやつがいるわけじゃねぇから、適当に学校の敷地内を彷徨っていたら、体育館裏で身を寄せ会う男女を見つけた。



体育館裏って漫画とかドラマの話だけじゃねぇのかよ。

アホらしい、そう思って移動しようと思ったら何だか、二人の姿に見覚えがあった。



そう思ってからは誰か、すぐに分かった。

矢野と…俺の前の席の女。






< 121 / 264 >

この作品をシェア

pagetop