世界で一番、ずるい恋。
適当に目の前の本を手にとってパラパラと捲ってみる。
だけど、今の私には並んだ文字はなんの意味も持たない。
全く頭に入ってくれない。
結局すぐに閉じて、本棚に戻そうと手を伸ばした、その時。
「図書室の戸締まりは任せて良いか?」
すぐ後ろから聞こえてきた声に心臓がドキリと嫌な音をたてた。
いつから私は、愛しいと感じてたはずのこの声に胸を痛めるようになったんだろう。
こんな道を選んで、一体誰が幸せになれるんだろう。
振り返り、先生の顔を見ると、思わず目をそらしたくなった。
先生はあまりに下手くそすぎる作り笑顔を浮かべていた。
そこまでして、私なんかに笑いかけないで欲しかった。
返事をしなきゃいけないのに、先生の顔を見ると何も言えなくなって黙るしかなかった。
俯き、困っていると急に肩に手を置かれ、そのことに気づいた瞬間には抱き寄せられた。
「勿論。俺と茜は図書委員なので」
それは、何を考えているのか分からない千堂くんに。