世界で一番、ずるい恋。
……千堂くん?
顔をあげると、余裕そうな笑みを浮かべた千堂くんがいた。
肩に置かれた手に、突然呼ばれた " 茜 " に、私は状況が呑み込めず、ただ千堂くんを見つめるしなかった。
だけど、その視線が交わることはない。
千堂くんの視線は、真っ直ぐ先生に向けられている。
笑みを浮かべる表情とは裏腹に、その視線はどこか冷ややかで何だか怖かった。
「だから、早く行ったらどうですか?待ってるんじゃないですかーー彼女が」
「……っ」
その瞬間、先生が小さく声を漏らした。
恐る恐る先生に視線を移すと、私たち二人の視線は重なった。
そして、その先生の視線が私に問いかけている気がした。
ーーお前が、言ったのか。
違う、私じゃないよ先生。
疑いを晴らしたいのに、今更そんな取り繕うような真似をしたって無駄なんじゃないかって思えてくる。
だって先生が今の私なんて、信じてくれる?
そう思うと、否定も肯定もせずに黙ってるのが一番なんじゃないかって思う。