世界で一番、ずるい恋。
……わあ、千堂くんエスパー。
冷ややかな声に思わず苦笑する。
だよね、そうだよね、当たり前だ。
でも、だとしたら本当に誰なんだろう、さっぱり分かんないよ。
「俺の話はいいから、阿波の話しろよ。聞いてやるからさ」
そう言うと千堂くんは、視線を数学準備室へと向けた。
「……最近、矢野見えないよな」
そのまま彼と同じように視線を向けて黙ってしまった私に、静かにそう放つ。
そんな千堂くんの言葉にズキンと胸が痛む。
……先生の話は、正直避けたい話題だった。
だから明るく振舞って、千堂くんの恋話をして、何とか先生の話にならないようにしてたって言うのに。
矢野、という名前も、見えないと言う単語も、私の胸に得体の知れないモヤモヤを作って、静かに騒ぎ立てる。
見えない、そう見えないんだ。
この一週間、先生はサッカー部に姿を見せない。
そんなことは、たまにある話だったから、別に珍しくもないから気にする必要なんてない。
でも、そしたら先生は必ずと言っていいほど数学準備室にいるんだ。
だから私は図書委員を選んだんだもん。