世界で一番、ずるい恋。
「あらみなさん、お揃いで」
何を言われてここに来たのかは分からないけど、その笑顔と余裕に違和感を感じる。
「あぁ、もうメチャクチャだ…」
隣から、そんな律の力ない声が聞こえてきたけど、私は恋那ちゃんから目を離せずにいた。
トン、トン、と恋那ちゃんが足を進める。
「恋那…?」
先生が不安そうに名前を呼んだ。
確実にいつもと何か違う彼女に気付いたんだと思う。
やがて、先生の前で立ち止まった恋那ちゃん。
何も言葉を発することなく、にこやかに先生を見つめてる。
そんな彼女に、何かを確かめるかのようにそっと手を伸ばした先生。
だけどーー。
「気安く触らないでくれる?」
パシン、と静かな空間に響いた乾いた音。
先生のその手は、恋那ちゃん自身によって無惨にも振り払われた。