世界で一番、ずるい恋。
そっと重なった唇。
突然の出来事に、私は動くことすら出来なかった。
「……幸せになれ、茜」
唇が離れると律は、私を見つめてさっきと同じ台詞を口にした。
何も言えずに頷けば、満足そうに目を細めた律。
その瞬間、彼の頬を一筋の涙が伝った。
拭おうと手を伸ばしたけど、彼はそれを拒んだ。
ダメだと言うように首を振り、彼はドアを閉めて図書室の中に一人戻った。
廊下に残された私は、足が張り付いてしまったように、しばらくそこから動くことは出来なかった。
「……うっ、」
ドアに額をくっつけて、目を閉じる。
苦しくて、悲しくて、たまらなかった。
誰か助けて欲しかった。
だけどもうヒーローは来てくれない。
今、この瞬間、自ら手放したんだから。
まだ律の温もりが残る唇に触れる。
……律とのキスは、涙の味がした。