世界で一番、ずるい恋。
「……私なんかを襲う物好きなんているのかな?」
「…………はぁ?」
至って本気で言ったのに千堂くんからは怪訝そうな返答。
「お前、本気で言ってんの?」
後ろ姿しか見えないから、彼の表情は分からない。
でも、その声は何かを堪えたように苦しそうで、なんて返せばいいのか分からなくて、黙るしかない。
だってさ、わざわざ私を狙わなくったって可愛い子なんて沢山いるじゃん。
「わっ……」
俯きながら歩いていたら、何かにぶつかった。
慌てて顔を上げれば、少し前を歩いていたはずの背中がすぐ目の前にあった。
「千堂くーー」
「あのな、阿波」
いつもより低い千堂くんの声が聞こえたと思うのと同時に、両肩が凄い力で掴まれた。
「……っ、」
背中に感じるコンクリートの冷たさ。
痛みは声にならなかった、というよりもとても声を発せられるような状況じゃなかった。
呼吸も忘れそうなほど綺麗な顔が、真っ直ぐな瞳が、至近距離で私を捉えた。