世界で一番、ずるい恋。



笑いすぎて涙目になった瞳を右手で擦りながら話す先生。

その仕草ひとつひとつに目を奪われる。




「あれ、阿波ほんとに怒っちゃった?」




私が真剣に先生を見てたからかな。

そう勘違いした先生が、突然そんなことを言ってきた。




「いや、私はーー」

「どーっちだ!」

「……へ?」





慌てて否定しようとしたら、先生は突然ポケットを漁ったあとそう言った。

私の視線の先には握られた先生の両手。



どーっちだって……。


戸惑いながら先生を見ると、いたずらっ子のような笑みを浮かべて私を見ていた。


……また、初めての先生だ。

この短時間でどんどん知らなかった先生が現れてくる。



少しの勇気で、今まで感じてた距離が馬鹿らしくなるくらい、近づいてる気がする。




「えっと、右?」




その手に触れないように、そっと人差し指で示した。

たったそれだけのことでドキドキしてるって知ったら、先生はどう思うんだろう。







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