世界で一番、ずるい恋。
いつも眺めるだけだった、あの場所に今から行くんだ。
図書室から焦がれるように見つめるだけだったあの場所に、先生と二人。
ついこの間まで私にとって別世界のように見えていたのに。
……って、ダメダメ。
私は今から数学を教えてもらうんだから。
気を抜けば緩みそうな頬に触れると、少しだけ熱を持っていた。
こんな顔見られたら、勉強する気がないって思われちゃう。
一番の目的が違うだけで、勉強する気がないわけじゃない。
数学の成績が上がれば、先生も少しは嬉しいって思ってくれるでしょ?
「あ、阿波!俺を置いていくなよ」
顔を隠すために背を向けて前を歩き始めた私に、先生が慌てたような声をあげた。
軽快な足音が私の後ろをついてくる。
「そういえばさ、阿波」
「……何ですか?」
「何か俺に聞きたいこと、あるんじゃない?」
その一言に、息が止まるかと思った。