世界で一番、ずるい恋。





いつも眺めるだけだった、あの場所に今から行くんだ。

図書室から焦がれるように見つめるだけだったあの場所に、先生と二人。


ついこの間まで私にとって別世界のように見えていたのに。

……って、ダメダメ。


私は今から数学を教えてもらうんだから。


気を抜けば緩みそうな頬に触れると、少しだけ熱を持っていた。

こんな顔見られたら、勉強する気がないって思われちゃう。

一番の目的が違うだけで、勉強する気がないわけじゃない。


数学の成績が上がれば、先生も少しは嬉しいって思ってくれるでしょ?




「あ、阿波!俺を置いていくなよ」




顔を隠すために背を向けて前を歩き始めた私に、先生が慌てたような声をあげた。

軽快な足音が私の後ろをついてくる。




「そういえばさ、阿波」

「……何ですか?」

「何か俺に聞きたいこと、あるんじゃない?」





その一言に、息が止まるかと思った。





< 61 / 264 >

この作品をシェア

pagetop