リミットラブ


会社から出て行こうとしたところ、前方から部長が笑顔を浮かべながらこちらに向かって歩いてくる。


またか…とあたしは溜め息をつくのだ。


毎週金曜日になると、部長は食事に誘ってくる。
毎週断っているのにも関わらず、毎週誘ってくるのだ。

いい加減こっちにも我慢の限度がある。



「兵藤くん、食事でもどうかな?」


「今日急いでいるんで。お疲れさまでした」



煙草の匂いが漂う部長の隣を通って、あたしは出口へと向かう。


部長の隣を通っていくとき、息を止めていたのは言うまでもない。


外に出ると、夕陽があたしを包み込む。
まるで「お疲れさま」と言ってくれているようで、あたしは嬉しくなる。


明日は晴れかな?
そしたら唄いに行くよ。


あたしは家路に向かう。


運命がゆっくりと動く、世界の中を。



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