リミットラブ
テレビはプロ野球の話題だ。
野球にあまり興味がないあたしは、すぐに視線を反らした。
「お帰り、明菜」
「ただいま、お母さん」
あたしの名前は兵藤明菜。
明菜という名前はとても気に入っている。
なんとなくだけれど。
冷蔵庫から麦茶を取り出して、グラスに注いでいく。
すると後ろから声が聞こえてきた。
「明菜、お帰り。疲れただろう?」
「お父さん、ただいま。大丈夫よ、仕事は辛くないから」
こう父親に言って、麦茶を飲んでいく。
あたしの言葉を聞いた父親は、小さく笑った。
父親は今、市長の下で働いている。
また体調を崩すのではないかと思うと心配でならない。
「そうか…。ちょっと話があるんだ、いいか?」
「うん、どうしたの?」
父から話があるなんて珍しい。
どうしたのだろう?
あたしはグラスをテーブルに置いて、父が座るソファーの目の前に腰を下ろした。
父はテレビに視線を向けて、なにも言わないまま。
その瞳が、何かを訴えているようだった…。
「明菜はもう23歳か…」
本当に突然すぎた…。