リミットラブ


予測なんてしていない。出来るヒマさえなかったのだから。



父はテレビのリモコンの電源を切り、ゆっくりとあたしの方に視線を向けた。



「どうしたの?なにか…あった?」



父の顔を、久しぶりに真正面から見た気がする。
また、皺が増えた?
そんなに辛い仕事ばかりなの?

こう、心配してしまう自分がいる。



「明菜は、結婚とかどう思ってるんだ?いい人はいないのか?」



父の言葉を聞いたあたしは黙ってしまう。
黙ることしか出来ない。
またその話?
もうやめてよ。


父はあたしが早く結婚して欲しいと願っている。
しかも条件付きだ。
その条件とは《収入のいい人》
なぜかって?
それはあたしに苦労させたくないから…らしい。

今年に入って何度目だろう?
この話を聞くのは。



「またその話?あたし言ったじゃない。結婚なんかしないって。ずっと働くの。」



なにが不服なのよ?
あたしは両親に楽をさせたいのに。


リビングに漂う、カレーの匂い。
あたしの大好物。
『ツナカレー』だ。



あたしは立ち上がり、父に背を向けた。
聞きたくない、もう。



「待ちなさい、明菜。
明日の夜、ある人が夕飯を食べに来るんだ。」


丸くなった父親の背中を見るあたし。



どういうこと?



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