それでも、課長が好きなんです!
第4話 二度目の告白
気だるい体を起こして辺りを見回すと、着替えて窓際のソファに座って外を眺める穂積さんを見つけた。
夜明け前の外は明かりも少なく真っ暗で、部屋の明かりも淡いルームランプの光だけだった。
あの日の夜もチーム内での飲み会の日だった。
普段はめったに参加することがなかった穂積さんが飲み会の席に来たため、賑やかな輪の中でひとりだけ緊張していた。
会社の外に出た穂積さんは仕事の時とは違って幾分気さくで、周りのみんなはそんな彼と楽しそうに過ごしているのに、わたしはひとり勝手に彼を意識して勝手に照れて隅っこでひたすら飲みに走っていた。
運よく帰宅時、自宅が同じ方角のグループに入ることができて最初は六人くらいだった集団もやがてわたしと穂積さんのふたりになった。
会社の外でふたりきりになるのなんてはじめてだったからドキドキしすぎて会話の内容は覚えていない。でも、これだけは覚えている。酔っぱらったわたしに時々「大丈夫か」とかけてくれた声が相変わらず無愛想だったけど、目を合わせるとその瞳に優しさを感じた。
このまま帰るのは嫌だって思ったの。ずっとずっと一年以上胸の内に秘めてきた好きだって気持ちを、伝えたかった。
「帰りたくない」と告げた。
酔っているのかと軽く流されれば、次は「好きです」と告げた。
立ち止まると、半歩先で彼が立ち止まった。
ゆっくりと振り返る彼と真正面から向かい合ってもう一度、好きだと告げた。
真っ直ぐに見つめられると急に恐くなってきて体が震えて、でもそれでも歯を食いしばって目を合わせた。暗い夜道に明かりは薄暗い街灯だけで、もともと薄暗かった視界が急に真っ暗になった。
微かな大人の香水の香りと、優しい体温に包まれてすぐには自分が抱きしめられていることに気がつかなかった。
抱きしめられていると言う事実を実感するより先に体は離れ手を引かれた。
辿りついた場所は穂積さんのマンションだった。
再び、先ほどより強く抱きしめられればそのまま身を委ねた。
拒否をする理由なんてない、本望だった。わたしに触れる唇も、指も、体を包む腕もすべてがとても優しかったから自惚れて期待してしまったのも事実。
名前も、呼んでくれた。
きっと穂積さんもわたしのこと……
「……起きたのか」
「はい」
「家はこの近くか。朝になったら送るからそれまで眠……」
「あの……っ」
静かな部屋に穂積さんの言葉を遮るわたしの大きな声が響いた。
穂積さんは黙ったまま、わたしの言葉の続きを待っているようだった。
「わたしの気持ち……伝わりましたか」
「だいぶ酔っていたようだな」
「よ、酔ってなんかないです。わたしお酒強いんで」
「あんなに赤い顔してか」
「全然平気です!」
「……」
沈黙は一瞬だった。
酔った勢いであんなこと言ったんじゃなくて、わたしはずっと前からあなたのことが本当に好きなんです……!
そう告げたかったけど、次の彼のひと言がわたしを金縛りにして動けなくしてしまった。
「昨日は、すまなかった」
薄暗い部屋の中で、穂積さんの姿は確認できるけど表情までは見えなかった。ほんの数メートル先の彼の本意さえも確認することが出来なかった。
「すまなかった」の一言が自分を、自分の気持ちを真っ向から拒否しているように感じてこれ以上何も言えなくなった。
あの日から、数カ月経った今でもわたしは諦めることも前に進む事も出来ずにいる。
脈がないのは分かっているから、あとはもう当たって砕けるだけだ。
せめてたった一年だけど、されど一年。この一途な想いを本気だって分かって欲しい。きっぱりと、仕事のときの様に厳しく、二度と立ち直れないくらいはっきりとした言葉で振ってほしい。
大丈夫、失恋なんて初めてじゃない。
恐くなんてない。
覚悟は決めた!
夜明け前の外は明かりも少なく真っ暗で、部屋の明かりも淡いルームランプの光だけだった。
あの日の夜もチーム内での飲み会の日だった。
普段はめったに参加することがなかった穂積さんが飲み会の席に来たため、賑やかな輪の中でひとりだけ緊張していた。
会社の外に出た穂積さんは仕事の時とは違って幾分気さくで、周りのみんなはそんな彼と楽しそうに過ごしているのに、わたしはひとり勝手に彼を意識して勝手に照れて隅っこでひたすら飲みに走っていた。
運よく帰宅時、自宅が同じ方角のグループに入ることができて最初は六人くらいだった集団もやがてわたしと穂積さんのふたりになった。
会社の外でふたりきりになるのなんてはじめてだったからドキドキしすぎて会話の内容は覚えていない。でも、これだけは覚えている。酔っぱらったわたしに時々「大丈夫か」とかけてくれた声が相変わらず無愛想だったけど、目を合わせるとその瞳に優しさを感じた。
このまま帰るのは嫌だって思ったの。ずっとずっと一年以上胸の内に秘めてきた好きだって気持ちを、伝えたかった。
「帰りたくない」と告げた。
酔っているのかと軽く流されれば、次は「好きです」と告げた。
立ち止まると、半歩先で彼が立ち止まった。
ゆっくりと振り返る彼と真正面から向かい合ってもう一度、好きだと告げた。
真っ直ぐに見つめられると急に恐くなってきて体が震えて、でもそれでも歯を食いしばって目を合わせた。暗い夜道に明かりは薄暗い街灯だけで、もともと薄暗かった視界が急に真っ暗になった。
微かな大人の香水の香りと、優しい体温に包まれてすぐには自分が抱きしめられていることに気がつかなかった。
抱きしめられていると言う事実を実感するより先に体は離れ手を引かれた。
辿りついた場所は穂積さんのマンションだった。
再び、先ほどより強く抱きしめられればそのまま身を委ねた。
拒否をする理由なんてない、本望だった。わたしに触れる唇も、指も、体を包む腕もすべてがとても優しかったから自惚れて期待してしまったのも事実。
名前も、呼んでくれた。
きっと穂積さんもわたしのこと……
「……起きたのか」
「はい」
「家はこの近くか。朝になったら送るからそれまで眠……」
「あの……っ」
静かな部屋に穂積さんの言葉を遮るわたしの大きな声が響いた。
穂積さんは黙ったまま、わたしの言葉の続きを待っているようだった。
「わたしの気持ち……伝わりましたか」
「だいぶ酔っていたようだな」
「よ、酔ってなんかないです。わたしお酒強いんで」
「あんなに赤い顔してか」
「全然平気です!」
「……」
沈黙は一瞬だった。
酔った勢いであんなこと言ったんじゃなくて、わたしはずっと前からあなたのことが本当に好きなんです……!
そう告げたかったけど、次の彼のひと言がわたしを金縛りにして動けなくしてしまった。
「昨日は、すまなかった」
薄暗い部屋の中で、穂積さんの姿は確認できるけど表情までは見えなかった。ほんの数メートル先の彼の本意さえも確認することが出来なかった。
「すまなかった」の一言が自分を、自分の気持ちを真っ向から拒否しているように感じてこれ以上何も言えなくなった。
あの日から、数カ月経った今でもわたしは諦めることも前に進む事も出来ずにいる。
脈がないのは分かっているから、あとはもう当たって砕けるだけだ。
せめてたった一年だけど、されど一年。この一途な想いを本気だって分かって欲しい。きっぱりと、仕事のときの様に厳しく、二度と立ち直れないくらいはっきりとした言葉で振ってほしい。
大丈夫、失恋なんて初めてじゃない。
恐くなんてない。
覚悟は決めた!