それでも、課長が好きなんです!
午後七時過ぎに会社を退社すると一人自宅への道のりを歩く。
帰宅途中にあるコンビニを横目に今日の夕飯はどうしようかと考える。
簡単にコンビニ弁当で済ませたい気持ちもあるが、冷蔵庫に賞味期限が切れそうな食材が残っていたかなと考え立ち止まることなく自宅を目指した。
歩きながら自分の携帯が鳴っていることに気が付きバッグから携帯を取り出した。
前部署でお世話になった先輩、寺島さんからのメールだった。
メールを開くと、今度一緒に飲みに行こうといった内容だった。
異動をする前に口約束はしたものの、互いに忙しくてまだ実現できていなかった。
部署が離れたと言っても同じ会社だ。
同じビルで働いている。
それなのに一度も会うことがなかった。
偶然にすれ違うことくらい、あってもいいのに。
「寺島さん、元気かなー……」
独り言を呟きながら、頭に思い浮かべるのは……穂積さんだ。
一ヶ月経った今、完全に吹っ切れたかというとイエスとは言えない。
簡単に吹っ切れるほど軽い気持ではなかったから。
でも日に日に彼のことを考える時間は減っていっている。
会わない日々がそうさせているのだと思う。
だからこの気持ちも時間が解決して、きれいさっぱり忘れさせてくれるのだと思う。
うん、そうに違いない。
大きく頷き顔を上げると自宅マンション前だった。
オートロックを抜けエレベーターは使わず階段から自宅のある二階へと上がる。
階段前に着くと、髪の長い女性が階段に腰掛け頭を抱えるようにしてうずくまっていた。
「どうかなさったんですか?」
わたしの声に反応した女性がゆっくりと顔を上げた。
瞳を合わせ、思わず息を飲んだ。
気の強そうな瞳がじっとわたしを見据え、彼女の持つ上品で色っぽい大人の女性の雰囲気に圧倒されてしまった。
口を半開きのまま女性の瞳に吸い込まれるようにじっと見つめていると、彼女は言葉一つ発せず表情も一ミリも変えずに立ち上がった。
立ち上がった彼女は見上げるほどの長身で、長袖のシャツにエスニック柄のロングスカートをはいている。
すると一歩前に出た彼女が身体をわたしへと倒れるように預けてきた。
「だ、大丈夫ですか!?」
見た目よりがっちりとした身体を必死に受け止める。
ふわりと香る柑橘系の甘いこの香りは……化粧品の匂いだろうか。
わたしの肩を抱いた彼女が、わたしの耳にぐっと唇を寄せる。
吐息がかかって背筋がビクリと震えた。
「腹……減った……」
耳元でか細く低く響いた声は、……まぎれもなく男性のものだった。
帰宅途中にあるコンビニを横目に今日の夕飯はどうしようかと考える。
簡単にコンビニ弁当で済ませたい気持ちもあるが、冷蔵庫に賞味期限が切れそうな食材が残っていたかなと考え立ち止まることなく自宅を目指した。
歩きながら自分の携帯が鳴っていることに気が付きバッグから携帯を取り出した。
前部署でお世話になった先輩、寺島さんからのメールだった。
メールを開くと、今度一緒に飲みに行こうといった内容だった。
異動をする前に口約束はしたものの、互いに忙しくてまだ実現できていなかった。
部署が離れたと言っても同じ会社だ。
同じビルで働いている。
それなのに一度も会うことがなかった。
偶然にすれ違うことくらい、あってもいいのに。
「寺島さん、元気かなー……」
独り言を呟きながら、頭に思い浮かべるのは……穂積さんだ。
一ヶ月経った今、完全に吹っ切れたかというとイエスとは言えない。
簡単に吹っ切れるほど軽い気持ではなかったから。
でも日に日に彼のことを考える時間は減っていっている。
会わない日々がそうさせているのだと思う。
だからこの気持ちも時間が解決して、きれいさっぱり忘れさせてくれるのだと思う。
うん、そうに違いない。
大きく頷き顔を上げると自宅マンション前だった。
オートロックを抜けエレベーターは使わず階段から自宅のある二階へと上がる。
階段前に着くと、髪の長い女性が階段に腰掛け頭を抱えるようにしてうずくまっていた。
「どうかなさったんですか?」
わたしの声に反応した女性がゆっくりと顔を上げた。
瞳を合わせ、思わず息を飲んだ。
気の強そうな瞳がじっとわたしを見据え、彼女の持つ上品で色っぽい大人の女性の雰囲気に圧倒されてしまった。
口を半開きのまま女性の瞳に吸い込まれるようにじっと見つめていると、彼女は言葉一つ発せず表情も一ミリも変えずに立ち上がった。
立ち上がった彼女は見上げるほどの長身で、長袖のシャツにエスニック柄のロングスカートをはいている。
すると一歩前に出た彼女が身体をわたしへと倒れるように預けてきた。
「だ、大丈夫ですか!?」
見た目よりがっちりとした身体を必死に受け止める。
ふわりと香る柑橘系の甘いこの香りは……化粧品の匂いだろうか。
わたしの肩を抱いた彼女が、わたしの耳にぐっと唇を寄せる。
吐息がかかって背筋がビクリと震えた。
「腹……減った……」
耳元でか細く低く響いた声は、……まぎれもなく男性のものだった。