それでも、課長が好きなんです!
 再び眠りについて数時間。
 携帯にセットした目覚ましの音で起き上がると、背中が汗でしっとりと湿っていた。
 タイマー予約をしたエアコンが夜中に切れ、朝になる頃には不快な湿気が部屋中に広がっていつも目覚めると体じゅうがベタついている。

 ベッドから降りバスルームへ直行すると汗で湿った衣服を脱ぎ洗濯カゴの中へと放り込む。
 伸ばしかけのミディアムのボブスタイルの髪は濡れないように一つにまとめ上げシャワーで軽く体じゅうの汗を洗い流しついでに朝の洗顔も済ませた。
 数分ほどでバスルームを出ると、洗濯機の上に積まれたバスタオルを手に体を拭く。
 ふと狭い脱衣所に設置された鏡の中の自分と目が合う。
 上半身だけが映るその鏡の中の自分と目を合わせながら水滴の残る肌に指を滑らせる。

 痛々しいほどに真っ赤に咲いたあの夜の痕は、綺麗に消えてなくなっていた。
 最初から何もなかったみたいに。

 俯き小さなため息を吐くと再び鏡の中の自分と目を合わせた。
 無理矢理笑ってみせるとその不気味さに思わず噴き出した。
 なんて不幸せそうな冴えない笑顔なんだ。
 自分を皮肉ったあとのわたしの顔はすっかりいつものわたしの顔に戻っていた。
 歯を見せ、いーっと口を横に広げ鏡の中の自分を挑発するような晴れやかな笑顔を作ってみた。
 さぁ、着替えてメイクして会社へ行こう。

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