それでも、課長が好きなんです!
第8話 再び現る
隣を見上げるとやっぱり格好いいな、と思ってしまう。
新しい部署でのことや、新たな上司の村雨さんのことを話しながら頭では違うことを考えていた。
落ち着いた雰囲気も、すっと伸びた背筋も同年代にはない魅力がある。
時折見せる控えめな笑顔も、伏せた瞳は柔らかく揺れて数少ない彼のそんな笑顔を見られる瞬間がたまらなく嬉しかった。
身なりも服装もいつも清潔で整っていて、……いつも綺麗なワイシャツには自分でアイロンをかけているのだろうか。
自分の手に持つコンビニ袋を見てふと思う。
穂積さんは食事はいつもどうしているのだろう。
無意識に軽く唇を噛み締めた。
知らないことが、たくさんある。
ううん、わたしが穂積さんのことについて知っていることって何?
一年以上も思い続けてきたのに、わたしは彼のことについて未だ何も知らない。
どうして、勢いだけで好きだなんて言っちゃったのかな。
どうして、あの夜帰りたくないだなんて言ってしまったの。
ただひたすら目で追って片思いしていた時の方がずっと幸せだった。
――そんなことを考えてしまう。
あの楽しくてときめく日々を終わらせてしまったのは、自分だというのに。
「悪かったな」
「……えっ?」
話しが途切れた時、穂積さんからの突然の謝罪の言葉に動揺をした。
「あっ……いや、わたしが勝手に……」
「異動。俺も急で驚いたんだ」
「え?異動!?あぁ、異動!それはもう、全然……!」
わたしがした告白のことかと思って慌ててしまった。
落ち着け。
「最初は村雨さんに怒られてばっかでしたけど、最近はちょっとだけ仲良くなって……」
「相変わらずのようで安心したよ」
「結局、どこにいても怒られる運命なんですよ、わたしって」
「いばるな」
一度だけこちらに目をやり視線を合わせると、再び前を向いた穂積さんの口角が上向いた。
「瀬尾は……今だから言うが、なんと言うか。見ているといじめたくなる」
「……は」
自分は今、一体誰と会話をしているのだろう。
そんな分かりきった疑問を持ってしまうほどに、穂積さんから出たとは思えない台詞だった。
「や、やめてくださいよ。そんな、いきなりのエス発言……ど、どきどきする」
「なんだ、おまえはマゾか」
「はい!?……あっ、前、同じこと寺島さんにも言われた気が」
控えめな穂積さんの笑い声と、大きく甲高いわたしの笑い声が夜道に響く。
こんな日が来るなんて、想像したことがなかった。
仕事以外の場所で穂積さんと楽しそうに会話をする同僚に嫉妬していた頃の自分を思い出す。
悔しいな。
振られて、上司と部下の関係でなくなった途端に、こんな風に笑って会話をすることが出来るようになるなんて。
互いの自宅までの道を分ける十字路に着いた。
別れの挨拶は「おつかれさま」にしようと思ったが、夜も更けてきたし「おやすみなさい」と告げた。
穂積さんは「おやすみ」と返事をくれ背を向けた。
ここで二度目の告白した日、わたしは先に走り去ってしまったから彼を見送るのは初めてだ。
少しずつ遠く小さくなっていく背中を見つめていたら……手を伸ばして引きとめたくなった。
まだ一緒にいたいよって思ってしまう。
……だめなのに。
新しい部署でのことや、新たな上司の村雨さんのことを話しながら頭では違うことを考えていた。
落ち着いた雰囲気も、すっと伸びた背筋も同年代にはない魅力がある。
時折見せる控えめな笑顔も、伏せた瞳は柔らかく揺れて数少ない彼のそんな笑顔を見られる瞬間がたまらなく嬉しかった。
身なりも服装もいつも清潔で整っていて、……いつも綺麗なワイシャツには自分でアイロンをかけているのだろうか。
自分の手に持つコンビニ袋を見てふと思う。
穂積さんは食事はいつもどうしているのだろう。
無意識に軽く唇を噛み締めた。
知らないことが、たくさんある。
ううん、わたしが穂積さんのことについて知っていることって何?
一年以上も思い続けてきたのに、わたしは彼のことについて未だ何も知らない。
どうして、勢いだけで好きだなんて言っちゃったのかな。
どうして、あの夜帰りたくないだなんて言ってしまったの。
ただひたすら目で追って片思いしていた時の方がずっと幸せだった。
――そんなことを考えてしまう。
あの楽しくてときめく日々を終わらせてしまったのは、自分だというのに。
「悪かったな」
「……えっ?」
話しが途切れた時、穂積さんからの突然の謝罪の言葉に動揺をした。
「あっ……いや、わたしが勝手に……」
「異動。俺も急で驚いたんだ」
「え?異動!?あぁ、異動!それはもう、全然……!」
わたしがした告白のことかと思って慌ててしまった。
落ち着け。
「最初は村雨さんに怒られてばっかでしたけど、最近はちょっとだけ仲良くなって……」
「相変わらずのようで安心したよ」
「結局、どこにいても怒られる運命なんですよ、わたしって」
「いばるな」
一度だけこちらに目をやり視線を合わせると、再び前を向いた穂積さんの口角が上向いた。
「瀬尾は……今だから言うが、なんと言うか。見ているといじめたくなる」
「……は」
自分は今、一体誰と会話をしているのだろう。
そんな分かりきった疑問を持ってしまうほどに、穂積さんから出たとは思えない台詞だった。
「や、やめてくださいよ。そんな、いきなりのエス発言……ど、どきどきする」
「なんだ、おまえはマゾか」
「はい!?……あっ、前、同じこと寺島さんにも言われた気が」
控えめな穂積さんの笑い声と、大きく甲高いわたしの笑い声が夜道に響く。
こんな日が来るなんて、想像したことがなかった。
仕事以外の場所で穂積さんと楽しそうに会話をする同僚に嫉妬していた頃の自分を思い出す。
悔しいな。
振られて、上司と部下の関係でなくなった途端に、こんな風に笑って会話をすることが出来るようになるなんて。
互いの自宅までの道を分ける十字路に着いた。
別れの挨拶は「おつかれさま」にしようと思ったが、夜も更けてきたし「おやすみなさい」と告げた。
穂積さんは「おやすみ」と返事をくれ背を向けた。
ここで二度目の告白した日、わたしは先に走り去ってしまったから彼を見送るのは初めてだ。
少しずつ遠く小さくなっていく背中を見つめていたら……手を伸ばして引きとめたくなった。
まだ一緒にいたいよって思ってしまう。
……だめなのに。