それでも、課長が好きなんです!
イスに脚を組んで腰かける穂積さんの横へと立つとバサリと音を立てて資料がテーブルの上に置かれた。
「ここにあるのは一部だがこの資料をファイリングしたのはおまえだな、瀬尾」
「は、はい」
「ファイリングというのは資料を見やすく使いやすくするために分類、整理することだ」
「はい……」
穂積さんは体は正面へ向けたまま鋭い視線だけをこちらへと向けわたしを睨み上げた。
見下ろしているのは自分の方なのに、見下ろされているみたいだ……。
「一部資料が完全に裏面を向いている。きちんとプリントできていない資料もある。なんだこれは……!」
「も、申し訳ありません……!」
「こんな簡単なことも出来ないのかおまえは!」
厳しいひと言に思わず目をつぶってしまった。
簡単なこと、と言えばたしかに簡単なことかもしれないけど。
何百ページもある大量の資料のコピーとファイリングは思ったよりもかなりの重労働でひたすら三日間ずっと同じ作業をしていた。
ひとりでやっていたから見直しをする時間もなかったんだ。
でも、言い訳は絶対にだめ。思っていても口に出してはいけない。
「すみませんでした、次からは気をつけます……」
がっくりと肩を落とすと穂積さんはわたしの耳に届くくらいの大きなため息を吐いた。
穂積 聡(ほづみ さとし)は同じ部署の上司だ。
部署の中でもいくつかの課に分かれていて、同じ課で、彼は課長だ。
他人にも自分にも厳しく、部下を引っ張って行く力はあるのかもしれないけどとにかく男女問わず厳しい。
特にわたしは怒られてばかりで何度彼に雷落とされたことがあるのかもう、分からない。
何度落ち込んで寺島さんに慰めてもらったのかも分からない。
でもわたしはこの人がただ厳しいだけの人ではないって分かっているから、会社を辞めずに今日まで頑張ってこれた。
「量が多くて大変だと思ったなら誰かに手伝ってもうとか他に出来るだろ」
「で、でも……迷惑を」
「ひとりでやってこんな使えない資料にされるくらいならまだマシだ」
「はい……すみません」
「瀬尾は出来ないくせにすぐにひとりで頑張ろうとする」
穂積さんはもう一度溜息を吐き立ち上がると「森野あたりに俺が声をかけるから明日までにきちんとした資料を作れ、いいな」と言った。
ほら。
気がつくまでにかなりの時間を要したけれど、厳しい言葉の中にほんの少しの優しさを感じる瞬間がある。
「ここにあるのは一部だがこの資料をファイリングしたのはおまえだな、瀬尾」
「は、はい」
「ファイリングというのは資料を見やすく使いやすくするために分類、整理することだ」
「はい……」
穂積さんは体は正面へ向けたまま鋭い視線だけをこちらへと向けわたしを睨み上げた。
見下ろしているのは自分の方なのに、見下ろされているみたいだ……。
「一部資料が完全に裏面を向いている。きちんとプリントできていない資料もある。なんだこれは……!」
「も、申し訳ありません……!」
「こんな簡単なことも出来ないのかおまえは!」
厳しいひと言に思わず目をつぶってしまった。
簡単なこと、と言えばたしかに簡単なことかもしれないけど。
何百ページもある大量の資料のコピーとファイリングは思ったよりもかなりの重労働でひたすら三日間ずっと同じ作業をしていた。
ひとりでやっていたから見直しをする時間もなかったんだ。
でも、言い訳は絶対にだめ。思っていても口に出してはいけない。
「すみませんでした、次からは気をつけます……」
がっくりと肩を落とすと穂積さんはわたしの耳に届くくらいの大きなため息を吐いた。
穂積 聡(ほづみ さとし)は同じ部署の上司だ。
部署の中でもいくつかの課に分かれていて、同じ課で、彼は課長だ。
他人にも自分にも厳しく、部下を引っ張って行く力はあるのかもしれないけどとにかく男女問わず厳しい。
特にわたしは怒られてばかりで何度彼に雷落とされたことがあるのかもう、分からない。
何度落ち込んで寺島さんに慰めてもらったのかも分からない。
でもわたしはこの人がただ厳しいだけの人ではないって分かっているから、会社を辞めずに今日まで頑張ってこれた。
「量が多くて大変だと思ったなら誰かに手伝ってもうとか他に出来るだろ」
「で、でも……迷惑を」
「ひとりでやってこんな使えない資料にされるくらいならまだマシだ」
「はい……すみません」
「瀬尾は出来ないくせにすぐにひとりで頑張ろうとする」
穂積さんはもう一度溜息を吐き立ち上がると「森野あたりに俺が声をかけるから明日までにきちんとした資料を作れ、いいな」と言った。
ほら。
気がつくまでにかなりの時間を要したけれど、厳しい言葉の中にほんの少しの優しさを感じる瞬間がある。