それでも、課長が好きなんです!
「それは……」
「振られたって言ったけど、二回も振られて諦められないような振られ方だったの?」
「え……?」
「理由とか。千明と付き合えない理由があったんじゃない?」
「……」
きっぱりと振られたけれど、理由は知らない。
でも、わたしに気持ちがないってことが理由だし振られる理由としては十分だ。
「きっぱりと付き合えないって言われたんです。だからそれ以上は、別に……」
「……ずるい男(ヤツ)」
「え……?」
佑輔君の呟いた低い声に少しの怖さを感じて彼の表情を見た。
冷ややかな瞳を伏せ眉間にシワを寄せている。
「俺ホヅミさんとはほんとに他人だし、アイツ自身のことは何も知らない。話したことないし」
「はぁ……」
「でも、顔は知ってる。たぶん、合ってると思う」
「合ってる?」
「一度だけ見た、見覚えのある顔と」
それはつまり、やはり佑輔君は穂積さんのことを知ってる……?
どういうことかと問いかけようとしたと同時に、佑輔君は伏せた瞳をこちらへ向けた。
「千明は親子の密会現場に偶然出くわしたんだよ」
「……は?」
「もしかして不倫現場見ちゃったと思ってショックだった?」
「いえ、そんなことは一ミリも……」
佑輔君は「よかったねー」と単調な口調で言うと視線を逸らした。
「……え?」
よかったって、何が?
あぁ、不倫。
いや、そんな疑いハナからこれっぽっちも持っていなかった。
えっと……
「今、なんと!?」
急に目覚めたかのようなわたしの大声に、佑輔君が大袈裟に「うぉ!」と声を上げた。
「な、なんだよ急に発狂して……」
「今、なんて言いました!?」
「よかったねーって……」
「誰が親子!?」
「……」
佑輔君は自分の唇に人差し指を当てると「言うなよ、誰にも」と言った。
「あの人に息子がいるなんて世間に知れたら確実に隠し子騒動になる」
「そうなんだ……そっか」
驚きに一気に上昇した心拍数も、時間の経過と共にすぐに落ち着いてきた。
なんだか信じられないけど、きっと本当のことなんだろうな。
そう思えば、社内だろうが二人で会っていたことだって可笑しなことはない。
それなのに。
聞きたかったことが聞けて、知りた方ことが知れたけどまだ心がモヤモヤするのは何でだろう。
「一応兄弟になるのか? でも言うまでもないけど、親が再婚した時互いにもう立派な大人だったから兄弟なんて思い少しもないね」
「うん、そうですよね」
「あれー? 知りたかったこと知れたんだろ? もっといい顔しろよ」
佑輔君は「驚いた時のリアクションは面白かったけど」と誘うような笑顔を見せた。
でも、笑えなかった。
「この前と同じ表情してる。寂しくて死んでしまいそうな……うさぎ顔?」
「なんですかそれ」
「それとも、それが人に恋してる時の表情?」
「何言って……」
堪らず俯いた瞬間、佑輔君の指がやんわりと頬に触れ、驚いて身を引いた。
手を熱を持った頬に当て視線を上げると、瞬き一つしない佑輔君の視線に射抜かれて目が逸らせなくなった。
「もしかして、アイツと寝た?」
エアコンで暖まった部屋にいるのに、心に冷たい風が吹き抜けて身が凍るようだった。
まるで冷たい手で心臓を掴まれているような息が止まる視線に、わたしも瞬きを忘れる。
佑輔君が瞳を逸らし薄く唇を開けたと同時に、わたしも止まっていた呼吸を再開する。
でもすぐに、再び息が止まった。
「好きになった相手が悪かったよ。だって、息子も母親と同じように隠してる子供がいるんだぜ?」
頬に当てた手が、コツンと音を立てて床の上に落ちた。
「やっぱり、知らなかったんだ」
胸が苦しい。
目の前の景色が霞む。
佑輔君の声だけが耳に響く。
「ほら、やっぱズルイ男だろ?」
「振られたって言ったけど、二回も振られて諦められないような振られ方だったの?」
「え……?」
「理由とか。千明と付き合えない理由があったんじゃない?」
「……」
きっぱりと振られたけれど、理由は知らない。
でも、わたしに気持ちがないってことが理由だし振られる理由としては十分だ。
「きっぱりと付き合えないって言われたんです。だからそれ以上は、別に……」
「……ずるい男(ヤツ)」
「え……?」
佑輔君の呟いた低い声に少しの怖さを感じて彼の表情を見た。
冷ややかな瞳を伏せ眉間にシワを寄せている。
「俺ホヅミさんとはほんとに他人だし、アイツ自身のことは何も知らない。話したことないし」
「はぁ……」
「でも、顔は知ってる。たぶん、合ってると思う」
「合ってる?」
「一度だけ見た、見覚えのある顔と」
それはつまり、やはり佑輔君は穂積さんのことを知ってる……?
どういうことかと問いかけようとしたと同時に、佑輔君は伏せた瞳をこちらへ向けた。
「千明は親子の密会現場に偶然出くわしたんだよ」
「……は?」
「もしかして不倫現場見ちゃったと思ってショックだった?」
「いえ、そんなことは一ミリも……」
佑輔君は「よかったねー」と単調な口調で言うと視線を逸らした。
「……え?」
よかったって、何が?
あぁ、不倫。
いや、そんな疑いハナからこれっぽっちも持っていなかった。
えっと……
「今、なんと!?」
急に目覚めたかのようなわたしの大声に、佑輔君が大袈裟に「うぉ!」と声を上げた。
「な、なんだよ急に発狂して……」
「今、なんて言いました!?」
「よかったねーって……」
「誰が親子!?」
「……」
佑輔君は自分の唇に人差し指を当てると「言うなよ、誰にも」と言った。
「あの人に息子がいるなんて世間に知れたら確実に隠し子騒動になる」
「そうなんだ……そっか」
驚きに一気に上昇した心拍数も、時間の経過と共にすぐに落ち着いてきた。
なんだか信じられないけど、きっと本当のことなんだろうな。
そう思えば、社内だろうが二人で会っていたことだって可笑しなことはない。
それなのに。
聞きたかったことが聞けて、知りた方ことが知れたけどまだ心がモヤモヤするのは何でだろう。
「一応兄弟になるのか? でも言うまでもないけど、親が再婚した時互いにもう立派な大人だったから兄弟なんて思い少しもないね」
「うん、そうですよね」
「あれー? 知りたかったこと知れたんだろ? もっといい顔しろよ」
佑輔君は「驚いた時のリアクションは面白かったけど」と誘うような笑顔を見せた。
でも、笑えなかった。
「この前と同じ表情してる。寂しくて死んでしまいそうな……うさぎ顔?」
「なんですかそれ」
「それとも、それが人に恋してる時の表情?」
「何言って……」
堪らず俯いた瞬間、佑輔君の指がやんわりと頬に触れ、驚いて身を引いた。
手を熱を持った頬に当て視線を上げると、瞬き一つしない佑輔君の視線に射抜かれて目が逸らせなくなった。
「もしかして、アイツと寝た?」
エアコンで暖まった部屋にいるのに、心に冷たい風が吹き抜けて身が凍るようだった。
まるで冷たい手で心臓を掴まれているような息が止まる視線に、わたしも瞬きを忘れる。
佑輔君が瞳を逸らし薄く唇を開けたと同時に、わたしも止まっていた呼吸を再開する。
でもすぐに、再び息が止まった。
「好きになった相手が悪かったよ。だって、息子も母親と同じように隠してる子供がいるんだぜ?」
頬に当てた手が、コツンと音を立てて床の上に落ちた。
「やっぱり、知らなかったんだ」
胸が苦しい。
目の前の景色が霞む。
佑輔君の声だけが耳に響く。
「ほら、やっぱズルイ男だろ?」