それでも、課長が好きなんです!

第16話 笑っちゃう

「何かの理由があってずっと一緒には住んでないし、女とも一緒にいないみたいだけど……最近になって探してるとか」
「さがして……」
「切れてはないってことか、その辺は知らない」

「俺が知ってることは、これが全部」

 奈落の底に落とされたような衝撃だったが、心情とはまるで逆の反応を見せた。
 言葉だけは冷静に「なんでそんなこと佑輔君が知ってるんですか」と言い、表情にはわずかに笑顔すら浮かぶ。

「あのハハオヤがポロっと口にしたり、噂を耳にしたことがあるだけ。本当かは本人に聞いたわけじゃないから知らない」
「だったら……」

 だったら、そんなこと言わないで。
 聞きたくない。
 万が一本当のことだとしても、知りたくない。
 だって今さら知る必要のないことじゃない。

「アイツのこと知りたかったんだろ? だから俺のとこ来たんだろ? 知れてどう?」 

 佑輔君の指摘に、奥歯を噛み締める。
 自分の都合のいい感情に情けない気持ちで一杯になった。
 穂積さんのこと、知らないことがいっぱいだと寂しい気持ちになっていたのは自分なのに。
 振られたのに、まだ諦められない気持ちが彼のことを知りたいって行動に表してみたのに。
 それなのに、衝撃的な事実からは目を背けたいなんて。

「それが事実でも……わたしには、もう関係ないし」
「関係なくないだろ」
「ないです」
「こんな大事なこと黙って、千明の気持ち弄んで」
「別に遊ばれてなんか……」
「ヤッたのに?」
「あれは、わたしが帰りたくないって言って……!」

 ずっと目を背けてきた事実を突きつけられたみたいだ。
 あの日は、自分から誘ったんだ。
 それでもわたしを抱く腕は優しかったと、一瞬でも自分のことを想ってくれてたんだって都合のいい解釈で必死に自分を慰めた。
 遊ばれたなんて、そんな悲しいこと考えたくもなかった。
 だって昨日今日好きになった人じゃない。
 一夜限りの関係で割りきれるほど、軽い気持ちで抱かれたわけじゃないもの。

「あーあ……笑っちゃう」

 気の抜けた声が口から漏れる。


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