それでも、課長が好きなんです!
第18話 事実
カチカチカチ……
時計の秒針の音が部屋に響く。
ゴクリと息を飲み込む音も部屋中に響いてしまいそうで、ただじっと奥歯を噛みしめた。
「瀬尾には……話したいと思っていた」。
そう穂積さんが告げてから、五分以上の沈黙が続いている。
緊張をしすぎて瞬きすら忘れているのだろうか、酷い目の乾燥を感じてぎゅっと目を閉じた時だった。
「疑問に思うことがあるのだが」
やっと聞くことができた穂積さんの声に、隣の彼を見上げる。
「……瞳が、血走っている」
「目、目が乾燥して」
「部屋が乾燥しているのか」
「いえ……緊張しすぎて、瞬きを忘れ……」
目をこすりながら、自分のアホみたいな言動に気づき言葉の途中で口を閉じる。
無言でチクチクと刺さる視線が痛い。
きっとまた、呆れられているに違いない。
「どうして瀬尾のような女性が、自分のような男に好意を持つのか、ずっと疑問だった」
「それは……詳しくはわたしのような仕事が出来ないアホな女が、どうして穂積さんのような仕事の出来る完璧な男性に惚れるのか、と解釈していいですか」
「……」
「自分にないものを持っている人に惹かれるのは……よくあることだと思います」
「そうか」
胸の高鳴りが半端ない。動揺を隠そうと口数も多くなる。
はっとして目を固く閉じて俯く。
さらりとわたしはまた、穂積さんに好意があることを伝えてしまった。
もう……迷惑、ウザい、を通り越して気持ち悪がられたりして……。
でも、嘘は一つもついていない。
ずっと、わたしは自分の気持ちに嘘はついていない。
「完璧……か」
穂積さんは組んでいた脚をほどき両足を床につけると小さく俯いた。
「俺は完璧などではない」
そんなことはないって、頭ではそう思うのに、言葉に出して伝えても相手には伝わらないような気がして何も言えなかった。
「何を、どこまで知っているんだ」
「いろいろ……」
「……」
無言で刺さる視線が痛い。言葉にするのが辛いけど、答えるしかなさそうだ。
「穂積さんと……柏木祐輔さんと、綾川京子さんとの関係や、あと……」
「あと?」
「あと、穂積さんには他に大事に思う女性がいて、……女性がいて。その人との間に……」
子供がいるって、佑輔君はそう言っていた。
本人から直接聞いたわけではないけれど、その通りなんだろうなって思う自分と、どこかまだ信じられない気持ちと半々だ。
「あの男が何を知って、何をどうおまえに説明したかは分からないが……おそらく、ほぼ事実だ」
「子供がいるって……話も」
「あぁ、事実だ」
「そう、ですか」
あまりにもあっさりと本人から事実を告げられ、すぐにはピンとこなかった。
でもじわじわと押し寄せる胸の痛みが、嘘でも冗談でも夢でもない、真実なんだってことを自分に知らしめるようだ。
これ以上、わたしがここにいる理由ってなんだろう。
これは、佑輔君が言ったこてんぱんに振られて来い、のこてんぱんな振られ方とは言えないかもしれないけど、なすすべがないことを思えば、もうこれ以上……
「だが……事実と違う部分もある」
「違う……部分?」
「それを瀬尾には」
わたしの名を告げると、何かを悩むようにして一度固く口を閉じ、そして告げた。
「……瀬尾には、話したい」
まるで、話すことをギリギリまでためらっているようだった。
「はい」
一言、返事をすることが精一杯だった。相手に聞こえたかどうか分からないくらいに、小さい声だった。
それ以上の言葉は出なくて、わたしは前方を見つめたまま、いつもはよく動く口を閉ざした。
時計の秒針の音が部屋に響く。
ゴクリと息を飲み込む音も部屋中に響いてしまいそうで、ただじっと奥歯を噛みしめた。
「瀬尾には……話したいと思っていた」。
そう穂積さんが告げてから、五分以上の沈黙が続いている。
緊張をしすぎて瞬きすら忘れているのだろうか、酷い目の乾燥を感じてぎゅっと目を閉じた時だった。
「疑問に思うことがあるのだが」
やっと聞くことができた穂積さんの声に、隣の彼を見上げる。
「……瞳が、血走っている」
「目、目が乾燥して」
「部屋が乾燥しているのか」
「いえ……緊張しすぎて、瞬きを忘れ……」
目をこすりながら、自分のアホみたいな言動に気づき言葉の途中で口を閉じる。
無言でチクチクと刺さる視線が痛い。
きっとまた、呆れられているに違いない。
「どうして瀬尾のような女性が、自分のような男に好意を持つのか、ずっと疑問だった」
「それは……詳しくはわたしのような仕事が出来ないアホな女が、どうして穂積さんのような仕事の出来る完璧な男性に惚れるのか、と解釈していいですか」
「……」
「自分にないものを持っている人に惹かれるのは……よくあることだと思います」
「そうか」
胸の高鳴りが半端ない。動揺を隠そうと口数も多くなる。
はっとして目を固く閉じて俯く。
さらりとわたしはまた、穂積さんに好意があることを伝えてしまった。
もう……迷惑、ウザい、を通り越して気持ち悪がられたりして……。
でも、嘘は一つもついていない。
ずっと、わたしは自分の気持ちに嘘はついていない。
「完璧……か」
穂積さんは組んでいた脚をほどき両足を床につけると小さく俯いた。
「俺は完璧などではない」
そんなことはないって、頭ではそう思うのに、言葉に出して伝えても相手には伝わらないような気がして何も言えなかった。
「何を、どこまで知っているんだ」
「いろいろ……」
「……」
無言で刺さる視線が痛い。言葉にするのが辛いけど、答えるしかなさそうだ。
「穂積さんと……柏木祐輔さんと、綾川京子さんとの関係や、あと……」
「あと?」
「あと、穂積さんには他に大事に思う女性がいて、……女性がいて。その人との間に……」
子供がいるって、佑輔君はそう言っていた。
本人から直接聞いたわけではないけれど、その通りなんだろうなって思う自分と、どこかまだ信じられない気持ちと半々だ。
「あの男が何を知って、何をどうおまえに説明したかは分からないが……おそらく、ほぼ事実だ」
「子供がいるって……話も」
「あぁ、事実だ」
「そう、ですか」
あまりにもあっさりと本人から事実を告げられ、すぐにはピンとこなかった。
でもじわじわと押し寄せる胸の痛みが、嘘でも冗談でも夢でもない、真実なんだってことを自分に知らしめるようだ。
これ以上、わたしがここにいる理由ってなんだろう。
これは、佑輔君が言ったこてんぱんに振られて来い、のこてんぱんな振られ方とは言えないかもしれないけど、なすすべがないことを思えば、もうこれ以上……
「だが……事実と違う部分もある」
「違う……部分?」
「それを瀬尾には」
わたしの名を告げると、何かを悩むようにして一度固く口を閉じ、そして告げた。
「……瀬尾には、話したい」
まるで、話すことをギリギリまでためらっているようだった。
「はい」
一言、返事をすることが精一杯だった。相手に聞こえたかどうか分からないくらいに、小さい声だった。
それ以上の言葉は出なくて、わたしは前方を見つめたまま、いつもはよく動く口を閉ざした。