それでも、課長が好きなんです!
「はじめて瀬尾に会った時、なんて使えない女なんだと思った」
「……はい?」

 どうして、急にまた彼女を探そうと思ったんですか。見つかったんですか。話せたんですか。
 わたしがした質問はこれらなのに。
 それなのに、穂積さんはおもむろに脚を組みリラックスした態勢を取ると、なぜだか私の昔話をした。
 主に、わたしが仕事中にやらかしてきた数々の失敗談だ。
 話しながら思い出し不快に思ったのか、ここは会社ではないのに、次第に穂積さんが上司だった時のピリピリとした空気になる。
 嫌なら、わざわざ思い出して語らなくてもいいのに。それも、この場で。

「あのぅ……わたしの悪口はいいんで、質問に答えてもらえませんか……」
「……彼女が去って何も出来ず彼女を傷つけた罪悪感と、何より自分自身が傷ついた俺は二度と人を愛するなんてこと出来ないと思ったし、したくなかった」
「はい……」

 だから仕事に打ち込んできたってさっき……
 わたしの悪口を語るリラックスした表情から一変して、揺れる瞳、動揺した表情。
 言うべきか、言わないでおくべきか、そう迷っているようだった。

「したくなかったのに……、目の前に可笑しな女が現れた」
「……え」
「今話した、イライラさせられてばかりで俺の心を乱す女が」
「それって……」

 息が苦しい、逸る気持ちを抑えられない。
 早く、早く次の言葉が聞きたい。
 とても落ち着いて座ってなんていられなくなって立ち上がろうとした、その時。
 扉一枚隔てた向こうの玄関から、物音が聞こえた。

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