それでも、課長が好きなんです!

第21話 選択

 自分の行動に驚いて、佑輔君の服の袖を掴んだまま固まる。
 久々に見た佑輔君の顔に安心感を覚えて、胸が熱くなる。

「何か用?」
「えっ」

 何か用? と言われても。
 いきなりタクシーに放り込まれたわたしの方が質問したいことがたくさんある。
 タクシーのこともだし、顔の傷のことも、それに……
 佑輔君に会ったら、無性に、何か伝えたい気持ちがあふれてきて……この気持ちは。

「まさかその顔。俺のことが好きだとか言うんじゃないだろうな」
「……」

 ムードのかけらもない。
 高まる気持ちに冷静になれないわたしと違って、佑輔君は普段となんら変わった様子もない。 
 拍子、抜け……。

「しゃきっとしろよ。ちょっと障害があるからって簡単に諦めんなよ」
「ちょっと……」

 ちょっと、どころじゃない。
 さすがに今回は、今回ばかりは諦めの悪いわたしでも、再び立ち上がる気力が起きない。 
 だからって、すぐに別の男性(ひと)を好きになるなんて、どうかしてるのかな。
 どうしようもない女であることは確か……あぁっ自分の気持ちが分からない。 
 佑輔君の服の袖を掴んでいた手は力なく落ち、歯を食いしばって目を固く閉じると大きく俯いた。
 でも、自己嫌悪に陥って項垂れている暇はなかった。
 強引に手を引かれると、再びタクシーに押し込まれる。

「ちょっ……あの!?」

 一体、どこへ連れて行こうという気なの。 
 タクシーの扉が閉まる。ちょっと、待ってよ。
 窓ガラスを開けゆっくりと動き出すタクシーから佑輔君を見つめる。

「ばいばい、千明」
「え……」

 顔に出来た傷は見ていてとても痛々しいものだったけど、彼が見せた笑顔は、晴れやかに澄んで、とても優しいものだった。

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